ペパーミントブルー

Kaimon_0
麓にあるいつもの温泉を後にしたのが11時40分。山を越えて池田湖に向かった。その道は池田湖を左手に見下ろしながら緩やかに下っている。道半ば、見晴らしの良い公園があるので、そこでコーヒーを飲むことにした。とても静かな公園だ。時折、静寂を破ってウグイスの甲高い声が響き渡る。桜の下のベンチに腰掛け、開聞岳と、その向こうに続く空を眺めながらコーヒーを飲んだ。今日はまったく晴れ渡っている。どこまでも走れる気分だ。車は坊津に向かって走り出した。
坊津のふところにある小さな砂浜、丸木浜はひっそりしていた。その奥にある岩場に行くと、潮溜まりでウミウシがひなたぼっこしていた。海に切り立った崖の地層がおもしろかったので、しばらく観察した。
Photo_22車は左手に東シナ海を臨むリアス式海岸をくねくね走り続けた。今日の目的はやはりここだった。海に面したレストラン。そこにはオープンデッキがあり、海の音を聞きながらコーヒーが飲める。ここのマスターは器用なので何でも自分でやる。パンも自分で作っている。特に、ペンキ塗りは得意のようだ。例えば、プラスチック製の丸テーブルは青く塗ってある。わざとそうしたのか、かなり雑だ。ぼくは白のままでいいのにと思う。今日気づいた。いつのまにかウッドデッキもペパーミントブルーになっていた。

ピラモール

第三日曜日は定休日。
カーテンを開けると「今日は何かいいことがありそう」と、思いたくなるくらい晴れていた。ダイニングに下りると、ぼくが昨夜セットしたフランスパンも、いい匂いに焼けていた。金もないし、ぼくはめったに繁華街に出ない。しかし、今日はブログでお世話になっているゆきちさんべにこさんに会うため、天文館に出かけた。昨日と今日、ぼくらが使っているプロバイダ、SYNAPSE主催のイベントが行われているのだった。まるで、デートに出かける気分だった。アイロンのかかったズボンに、ぼくはもう一度アイロンをかけた。店に車をとめ、天文館に向かって歩きはじめた。20分後、急に人通りが多くなった。そこは天文館ピラモールというところだった。
「あ~、ずぷーんさんだぁ~♪」
歩いていると、べにこさんとそのお嬢さんに遭遇。かわいいお嬢さんに声をかけられ、ぼくはとてもハッピーな気分になった。春だなぁ♪
まず、ゆきちさんのブースに行ってみた。物販をやっている他のブースとは異なり、そこは彼女の撮った写真を貼り付けたパーテーションに囲まれた不思議な空間だった。ぼくは彼女の写真をネット上で見ていたのだけど、プリントされた色とりどりの花や風景は、春の天文館の空気にとけてなじみ、また違った存在感を放っていた。道行く人たちも、「きれいねー」と、足を止めて見入っていた。
つぎに、べにこさんのいるブースに向かった。そこではべにこさんのご主人が漬物を販売されていた。想像していた以上に甘いマスクのご主人で、少々意外だった(笑) ここでも、べにこさんのお嬢さんに100万ドルの笑顔で迎えられた。うれしかった。
買って帰ったお漬物は、さっそく頂いた。まず、「島津梅」という干し大根の漬物を食べたのだけど、これが食べだしたら止まらなくなって困った。一気に半分くらい食べてしまった。日本人なんだなぁ(笑)

朝の残像

Rogi_01
最初のお客さんは、カメラマンの r 氏であった。
「マンデリンの浅煎りっちゅうのを飲ましてもらえないですか」
OK ぼくは、レンジに火をつけた。
コーヒーに湯を注いでいると、彼はカメラをドリッパーに向けた。
彼のカメラは、二度と戻ることのない一瞬を記録した。
未来と同様、過去は実在しない。
彼は深煎りのケニアを買い、天文館に向かった。
写真は「田園ぶらぶら写真館」館主rogi氏のものです。

魔女

毎朝コーヒー豆を焼く。それがぼくの日課だ。
今朝、いつものようにコーヒー豆を焼いていると、売り場に人の気配を感じた。売り場の明かりはまだ灯ってない。店は10時からだ。時計は9時30分を指している。
「一杯、飲ませてくれる?」
一目で高級品とわかる衣装をさりげなく着こなした年配の女性がカウンターに腰掛け、微笑んでいた。ぼくは照明のスイッチを入れ、コーヒーをたてた。
「きょう、お客さん、多いわよ」
カウンターにカップを置くと、彼女は意味深げに微笑んだ。
なにをおっしゃる。金曜日はたいていヒマなのだ。
と、そこに髪の長い女性が入ってきてコーヒー豆を注文した。開店10分前だった。
「マンデリンを1キロ」
それが始まりだった。以降、お客様は途絶えることなく、午前中にはいくつかのコーヒー豆が売切れ、夕方には、ほとんどのコーヒー豆が売り切れた。
もちろん、こんなことは滅多にない。

4343

オーディオに興味のある方なら、JBLの4343を知ってると思う。何年も前から、知人に「あのスピーカー、あげるから取りにおいで」と、いわれている。奥さんが2週間おきに珈琲豆を買いにいらっしゃるのだが、「あんた、いつになったら取りに来るのよ、ジャマでしょうがないんだから」目を吊り上げてブツブツおっしゃる。今日もいらっしゃったが、ぼくはその話にならないよう、注意を払う。すばらしいスピーカーだから欲しいのは山々だ。しかし、何しろデカイ。彼の家も広いのだが、リビングに置いてあるので、じゃまになるらしい。きっと、奥さんにブツブツ言われているのだろう。かわいそうに。できたら親しい人の家に置いておいて、たまには顔を眺めに行きたい、と彼は考えているのかもしれない。女性にはわかるはずもない、せつない話だ。

後出しジャンケン

半月ほど前、店に若い男から電話があった。詳細は忘れたが、「BGM使用料を払え」という内容のものだった。てっきりサギだと思い、「忙しいから後にしてくれ」といって電話を切った。実際、この手の電話が多くて困っているのだ。一週間後、同じところからまた電話があった。今度は若い女性の声だった。
「○○と申しますが、BGM使用料の件で…」
またか。
「今忙しいので、こちらからかけ直します」
ぼくは番号を聞き出し、電話を切った。サギだったら、この番号でシッポがつかめる。番号は東京を示していた。電話をしてみると、そこは間違いなく音楽の著作権を管理しているという某組織だった。
「カラオケの著作権使用料なら知ってるが、BGM使用料などというものは聞いたことがない。詳しい内容のパンフがあったら送ってくれ」
そう言って、ぼくは電話を切った。
すっかり忘れていたのだが、数日前、そのパンフが届いた。今日、ひまだったので、封を切って読んでみた。
「2002年某月の法律改正で、CDによってBGMを使用される場合はBGM使用料を支払う必要があります。CDを使用しているなら、2002年某月に遡って使用料を支払うように」
なんじゃこりゃ~。
著作権使用料については理解できないこともない。しかし、2002年まで遡って使用料を払え、というのは腑に落ちない。CDはダメだが、ラジオは支払わなくてよい、というのがその内容なのだが、あらかじめそれを知っていたなら「うちみたいな小さな店はラジオで十分、CDは使いません」という選択もできたのに、と思う。実際、皇徳寺店ではFMラジオをBGMに使っている。
督促の電話が来たところをみると、うちの店は当局にリストアップされてたのだろう。だったら、支払い義務が発生する前に、パンフなり送って教えてくれればいいのに。これじゃあ、ぼくがパーを出したのを見てチョキを出すようなものじゃん。
ちなみに、ぼくの店の場合、年間使用料は税込み6300円だそうだ。安いもんだけどね。
支払いを済ませば某国営放送と同じような、ドアに貼る金ピカのシールがもらえるそうだ。ぼくはそのシールが欲しくなって、金を払うことにしてしまった。

ピンぼけ

辺りの風景を撮ろうと、カメラのファインダーを覗く。
オートフォーカスがボロなので、いつまでも迷い続けてピントが合わない。
今日、ぼくの頭の中が、ちょうどそういう感じだ。
ピントを当てたいところにピントが合わない。
目の前をちょろちょろする、ねずみや猫にピントを持っていかれる。

夜光虫

今まで、一階の部屋を真っ暗にして音楽を聞いていた。かなりの音量で聞くので、家族は恐れをなして近づかない。学生の頃、変な夢があった。それは自分の喫茶店を持ちたいという夢。その頃、高級なオーディオ装置で音楽を聞かせる喫茶店が流行っていた。一日中いい音で音楽が聞け、おまけに金まで稼げるなんて、なんてステキな仕事だろう…と思った。ちゃんと名前も決めていた。ふたつあって、ひとつは「深海魚」。もうひとつが「夜光虫」。
夜光虫には特別な思い入れがある。免許を取ったばかりのころ、よく夜の海に出かけた。だれもいない真っ暗な海。闇の中に波の音だけが聞こえる。と、ザーッという音と同時に横一文字に青白い燐光が走る。夜光虫の仕業だ。波頭が砕けるときに光るのだ。満天の星の下、海では夜光虫が燐光を放っている。それは夢のように幻想的な風景だった。
今まで、ちあきなおみのChateau Chant 1981というアルバムを聞いていた。波の音、かもめの声、風の音、酒の匂い、時間。それが真っ暗な部屋の中でフラッシュバックする。それは夢のように幻想的な風景だ。ちなみに、このアルバムには演歌はない。すばらしいアルバム。失礼ながら、ちあきなおみがこれほどまでに凄い歌手だとは知らなかった。
スターのイメージ。それは、ぼくにとっては暗い海の波間で幻想的に瞬く星、夜光虫。

土曜の朝

以前はダイニングにラジオがあったので、土曜の朝は食事をしながらラジオが聞けた。土曜と日曜の朝は、好きな番組があるのだ。数ヶ月前にラジオは仕事場に引っ越した。今は土日もテレビが点いている。ぼくはテレビがとても嫌いだ。あの音を聞くと具合が悪くなる。とにかくうるさい。丸めた新聞紙を頭の中にぐいぐい押し込まれるような感じがする。最近ノイローゼ気味だ。音を聞いただけでいらいらしてくる。すぐに治ると思っていたのだが、今度はなかなか元に戻らない。病気だろうか。困ったものだ。ラジオの音はなんともないのに。