死んだふり

店のパソコンが、妙な動きをするようになった。
起動してしばらくは、普通に動く。
が、急に動きが遅くなって、ほとんどスローモーション状態になる。
キーボードをバシバシ叩こうが、ど突こうが、死んだ振りに徹し、主人のいうことを無視し続ける。
ナントカが足りない、という、こしゃくなエラーメッセージが出るが、その原因が分からない。
アタマにくる。ちなみにWindows2000。

写真デビュー

061007
ネットで、好きな写真に出会った。
急に、写真が撮りたくなった。
そこに何か感じるものがあったら、考えずに、とりあえずシャッターを押す。
そんなところからはじめてみようと思った。
ちなみに、使っているカメラは、いわゆるコンデジだ。

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親切なボク

朝、近所の奥さんがコーヒーを買いにいらした。
かなり年配の方。
「ここまで電波は届くかしらねぇ」
と言って、コードレスホンの子機を取り出した。
「届くでしょう、目の前だし。試しに通話ボタンを押してみれば?」
ぷぅーーーーー
「ちゃんと届いてますね」
「あら、ほんと。でも、この電話、音が小さくて聞き取りにくいのよー」
「簡単ですよ、その、音量、と書いたボタンをこうして…」
と言って、ぼくは音量ボタンを押した。
「どうです?大きくなったでしょ」
「まあ」
驚いて目を丸くしている。
「ずっと小さな音でガマンしてたのよ」
「よかったですね」ぼくは言った。

MyFriend

よく耳にする言葉だ。友達は大切にしろ、ってね。
そんなこと、ひとに言われたくない、と思う。
でも、ぼくは子供たちに、そう言ってきた。
矛盾してる、と思う。
言葉は、型にハマると白々しい。
おかしくてもいいから、その瞬間に生きている、ナマの言葉でしゃべりたいと最近思う。

へー

夕方、常連の女性二人組みがカウンターに座った。
チャーミングな二人なのだが、口が悪いのが玉に瑕だ。
一人が珍しい柄のバッグを持っていたので、ぼくは言った。
「シャレたバッグだね、見たことない柄だ」
「そう?これ、手作りよ、私が作ったの」
「ええっ、そんな、まさか」思わずぼくは口走った。
「あら、意外かもしれないけど、彼女は手芸が得意なの」
もう一人が言った。
「意外すぎる」ぼくは信じられなかった。
どうみても女の子らしいことをするタイプにはみえない。針と糸を手にしている姿が想像できない。さっぱりした性格で決断が早く、男っぽい雰囲気を持った女性なのだ。女性にモテるタイプとでも言おうか。
ぼくはすっかり見直してしまった。いわゆる「へー」というやつ。

偏向

夕方、マンデリン姉ちゃんがやってきた。
5年以上のお付きあいになるが、マンデリン以外、買ったことがないので、そう呼んでいる。
なぜか映画の話になった。
「あたしは金がかかってて、最後にボカーンとなるのが好き」
「ハリウッド物ですね。ぼくは最近見ないけど」
「でも今度のスーパーマンはおもしろくなかった」彼女は言った。
「そうなんですか」
「期待しすぎたのが良くなかったかもしれない」
「最初のスーパーマンはおもしろかったよね」ぼくは言った。
「そうそう、映画は1に限る、絶対」
「エイリアンは?あれは2もおもしろかったよ」
「ダメ、ああゆうゲロいのは」
「ターミネーターは」
「ダメダメ」
「ヨーロッパ映画は?」
「ダメ、ハッピーエンドが好きなの」
かなり偏向しているらしかった。
マンデリン以外買わないのも分かる気がした。

電話

061002今日は定休日。天気は悪くない。風もさらりとして、ドライブ日和と言ってもいいくらいだ。しかし、先日ひきかけた風邪のせいか、わずかに体が重い。顔を洗ったあと、屋上のレモングラスの葉を2枚むしりとり、それでお茶をいれた。屋上のベンチに腰掛け、ぼんやりとレモングラスティーを飲む。なにも考えないから、なにも浮かばない。あたりまえのことだが、勤務先から電話が来ることもない。わが家は街から離れた高台にある。がけっぷちなので、とても見晴らしがいい。それに静かだ。静かすぎると落ち着かない人もいるけれど。
突然、携帯が鳴った。上司からだ。
時空を超えて届く、組織からの電話。
「実は君の顧客名簿のことなんだが」
上司はいつもの声で言った。
「ぼくのは全部捨てました。なにもありません」
「そうか。そうだろうな」
相手はため息混じりに言った。とても残念そうだった。
ぼくが会社に勤めていたときの上司からだった。数ヶ月前、彼が会社を辞めたという話は風のうわさに聞いていた。自分で何か始めるらしかった。そのために、顧客データを集めているのだった。
「ぼくは今、月曜日が休みなんですよ」
明るい声でそう言うと、ぼくは電話を切った。

地下道

今日は定休日。天気は、そう悪くないが、なぜかドライブという気分にならなかった。先日ひいた風邪の余韻が、まだ体の隅に残っている。じっとしているのも退屈なので、「地下道」の地図作りでもすることにした。「地下道」の入り口はキッチン裏の納戸の奥。大きなダンボール箱をいくつか引きずり出し、奥の壁の合板を横にずらすと、小さなドアが現れる。まるで推理小説の一こまのような仕掛けだ。ドアをくぐり、狭い階段を降りていく。ひどくカビ臭い。3メートルほど下ったところで鉄製の扉に突き当たる。扉を木で作らなかったのは、家を建てた当時、扉の向こうの湿度が異常に高かったからだ。木製だと、たぶん1年もしないうちに腐ってしまっただろう。この扉を開けるのには、ちょっとした心構えが必要だ。というより、できたら酒を軽く一杯引っかけてからの方がいい、と、思う。3年前の夏のことだ。ひどく扉が重く、いくら押してもなかなか開かなかったことがあった。扉が少し開いた時、向こう側を覗き込んだぼくは腰を抜かした。おびただしい数の、干乾びて毛皮と骨だけになった動物の死骸。それが山のように折り重なって異臭を放っている。扉を塞いでいたのはそれだった。いったい、ここでなにがあったのだろう。とにかく、今まで見たことのない異様な光景だった。その夜、ぼくは原因不明の熱を出した。心の準備無しに扉を開けると、ひどい目に会う。
ぼくは持ってきたCDプレーヤーを足もとに置いてスイッチを入れた。山下達郎がパワフルな声で歌い始めた。それでも不安は消えなかった。ぼくはボリュームを上げた。錠をはずし、鉄の棒を引き抜く。彼の歌声に勇気付けられ、扉を押す。小さな悲鳴を上げつつ、扉は開いた。臭いは予想外に少なかった。ほっとした。扉の向こうには一畳ほどの踊場があり、その先から石積みの狭い階段になって、さらに地下へと続いている。蛍光灯が冷たい光を投げていた。石積みの階段やその先に張り巡らされた地下道は、家を立てる際に偶然見つかったもので、いつ頃できたのか、何のために作られたものなのかは不明だ。ネットで調べたが手がかりはなく、全く分からない。石の階段が見つかった時、家を設計した友人が、おもしろがって、このままにしとこうと言いだし、埋めずに残したのだ。ただひとつ、これまでの探検で、ぼくなりに分かった興味深い発見がある。わが家は高台のがけっぷちに建っているのだが、いくつかある地下道のひとつは、そのガケの切り立った面に開口し、その長さ、広さが、小規模ながら航空機のカタパルトを連想させるのだ。

信号待ち

日曜日だけど、ぼくは仕事。通勤途中、信号待ちで大型スクーターといっしょになった。乗ってるのはカッコイイお姉さん。ヘルメットからあふれ出た長い髪を、くりかえし、指で梳かしている。女性が髪をいじってる姿って、色っぽくていいよね。その美しい髪に見とれていると、ふと、奇妙な謎が浮かんだ。考えてみれば不思議じゃないですか。なんで、あんな、糸みたいなのがアタマにいっぱい生えてて、背中まで伸びてるの?ね、不思議じゃないですか。変な生き物だよねー、人間って。え?変じゃない?変なのはぼく?そうかも。

7の呪縛

明日から10月。2000年10月1日に、ぼくの店はオープンした。今日で丸6年になる。明日から7年目に突入。ぼくにとって、7は因縁深い数字だ。気づけば、なぜかいつも、すぐそばに7という数字が寄り添っていた。ぼくの意思に関係無く付きまとう不思議な数字だった。それに気づいたとき、奇妙に思うと同時に、ぼくは歓迎した。悪い数字じゃないと思ったからだ。しかし今、ぼくはそれと決別したいと思っている。7の因縁。それを意識しはじめた時点で、なにかが壊れたようなのだ。無意識裏に進行していた何かが停止した。取り返しのつかない何かが。そんな気がするのです。