彼女のスイッチ

今日もぼんやりしている。風邪が治らない。
「顔色が優れないようですが」
珈琲を買いにいらした女性のお客様が心配そうにおっしゃった。
「風邪がなかなか治らなくて、ごほっごほっ、ううぅ…」
ぼくはいかにも苦しげに返事をした。すると彼女の目はふいに輝きを増し、梅干を入れたお茶だの、某メーカーの薬が効くだのといった話を微に入り細をうがって強く説き始めた。そして、いつもより多く珈琲を買って帰られた。かわいそうに思われたのだろう。図らずもぼくは彼女のスイッチをONしてしまったらしい。それは母性というスイッチ。