ココロの冬

やっと暖かくなった。ここ数日の天気はいったい何だったのだろう。ぼくはまるで白夜の薄明の下、シベリアのツンドラ地帯を背を丸め、あてどもなく彷徨う放浪者のようだった。あまりの寒さに、もう少しでぼくは野垂れ死にするところだったのである。ぼくにとって寒さは呪いである。寒いとぼくの心は、柔らかくもその実ヒヤリと冷たい、ロッテ雪見大福のように芯まで冷え込んでしまうのだ。そう、ぼくは呪われているのかもしれなかった。しかし、いわれのない呪いはやってこない。ぼくにかかった呪いとは…。原因が分かれば呪縛を解く手がかりになる。白雪姫の呪いは毒リンゴ。王子のキスで解ける。美女と野獣も似たようなものだ。それはハリウッド的、単純なハッピーエンドである。ぼくはフランス映画が好きだ、というフリをするのが好きだが、フランス映画は概してハッピーエンドにならない。どこか難解で複雑、まるで不幸にこそ人生の奥義が隠されているといわんばかりに暗くひねくれ、ハッピーエンドは程度が低いとでも言いたげなイヤな終わり方をする。場合が多い。一方ぼくには複雑でわかりにくいものを高級とみなし、好もうとする逆行的傾向がある。自虐的なのだ。そうだ、それが呪いなのだ。ぼくは冬を憎みつつ、その奥底では愛しているのかもしれなかった。