蝶は卵からイモ虫になり、サナギになって羽化、どこかに飛んでいく。その体(ハードウェア)は劇的に変化し、当然、それをコントロールするソフトウェアもがらりと変わる。もし、蝶に感情があるとしたら、自分の意思に関係なく起こる身体の激変をどう受け止めるだろう。果たして支えきれるのだろうか。想像を絶することである。(想像だけど)
時に人は、こころを閉ざし、あたかもサナギのようになることがある。果たしてそれが病気なのかは分からない。あの小さな虫でさえ、驚異的なプログラムを複数備え、巧妙に切り替えて外界に順応している。ならば人間に同様のことができても不思議じゃない。つまり、ある者は環境に応じてサナギになり、取って置きのプログラムを発動して変化している可能性がある。サナギ化は一種のinitiation(通過儀礼)というわけだ。もちろん、それは自分の意思によるのではなく、大自然の声による。そういえばぼくは最近、野菜より甘いモノが好きになった気がする。そろそろ蝶になって飛んで行くのかもしれない。
それではみなさん、さよ~なら~
夜の鳥
低空飛行は続いている。なにかに迷い込んだらしい。
「かんじんなことは、目に見えないんだよ」
サンテグジュペリ、星の王子様に出てくることば。
夜間飛行
深夜、一人で見る空。とても暗い空。
動いている星は飛行機。
なんだかんだ言っても、結局は一人なんだな、と思う。
愛する人も、愛してくれている人も、ぼくのことを忘れて眠っている。
低空飛行中
アスファルトの穴がよく見える。
今日は浮力が下がっている。
落ちそうで落ちない。ぼくはその辺がうまい。
なにもないのです
冷たい風が吹いている。窓から見える西の空はぼんやり煙って、溶けたノーミソにうまくシンクロしている。ノーミソを起こすためにコーヒーを飲んだ。コーヒーを飲みながら、遠くのカバみたいな白い雲を眺めていたら、ムーミン谷の冬は終わっただろうか。そんなバカなセリフが浮かんだ。そしてなにか古い、とても懐かしい記憶がわき上がる気配を感じて、しばらく待ったが、なにもなかった。
春の青空
晴れているのに空はかすんでいる。
山の向こうに白い雲が見える。
夏の雲と違って輪郭が溶けてぼやけている。
青い水たまりにソフトクリームを落としたような空。
ぼくと君を分けているのは何だろう。
空から降る黄色い砂のせいで境目がはっきりしない一日。
悲しい色やね
第三日曜で定休日。高速道路を走って、この春、福岡に就職した娘に会いに行った。会いに行く、などというと、少し大げさな感じがするが、最近、父親らしくふるまうのも父の務めのような気がするようになってきた。微妙な年頃なのである。アパートは市役所のそばに建っていた。入り口にカメラがあって、人相の悪い男が近づくと直ちに警備員が走ってくるという、バイオハザードみたいな仕掛けがセットされているらしかった。エレベーターの横に、びびる看板があったので、ケータイに撮った。「ブログに載せるんじゃないでしょうね」と、娘にチェックされてしまった。だれに似たのかイヤな性格だ。ちょうど昼飯時だったので、隣の焼肉屋で定食を食べた。食べ終わるとすることがなくなったので「海にでも行こうか」と、提案した。「うみ~~?」芳しい返事は返ってこなかった。車は海に向かって走りはじめた。海が近づくにつれ、変な匂いがし始めた。見ると、海辺に大きな工場があり、高い煙突からモクモクと煙が出ている。堤防が見えてきた。きれいな海じゃなかった。もっと走ればきれいな色の海もあったかもしれない。車をUターンさせ、ショッピングセンターに行った。老若男女、たくさんの福岡の人が買い物を楽しんでいた。ぼくはなぜか福岡の人と相性がいいので、すぐになじんで、いい気分になった。娘に「ここはいいところだな、気に入ったよ」というと、笑っていた。
オトナの会話
馬
いつものことだけど、また変な夢を見た。
なんの脈絡もなく、ぼくは、直径1メートルほどの、石積みの塔をどんどん昇っていく。塔と言っても、その辺に転がっている大きめの石を、ただ重ねただけのもので、のぼっているとぐらぐらする。ついに頂上に達した。恐るべき高さだ。ぼくは降りることができずに茫然とする。すると、後方の空から馬が飛んできた。1頭、2頭、3頭、4頭。次々と飛んでくる。もちろん普通の馬じゃない。背中には立派な羽根が生えていて、悠然と羽ばたきながら飛んでいく。ぼくは塔の頂上から、あきれてそれを眺めている。次の瞬間、なぜかぼくは空飛ぶ馬を追いかけていた。そこで終わった。まるで夢のような夢だった。