夜の鳥

低空飛行は続いている。なにかに迷い込んだらしい。
「かんじんなことは、目に見えないんだよ」
サンテグジュペリ、星の王子様に出てくることば。

夜間飛行

深夜、一人で見る空。とても暗い空。
動いている星は飛行機。
なんだかんだ言っても、結局は一人なんだな、と思う。
愛する人も、愛してくれている人も、ぼくのことを忘れて眠っている。

なにもないのです

冷たい風が吹いている。窓から見える西の空はぼんやり煙って、溶けたノーミソにうまくシンクロしている。ノーミソを起こすためにコーヒーを飲んだ。コーヒーを飲みながら、遠くのカバみたいな白い雲を眺めていたら、ムーミン谷の冬は終わっただろうか。そんなバカなセリフが浮かんだ。そしてなにか古い、とても懐かしい記憶がわき上がる気配を感じて、しばらく待ったが、なにもなかった。

春の青空

晴れているのに空はかすんでいる。
山の向こうに白い雲が見える。
夏の雲と違って輪郭が溶けてぼやけている。
青い水たまりにソフトクリームを落としたような空。
ぼくと君を分けているのは何だろう。
空から降る黄色い砂のせいで境目がはっきりしない一日。

悲しい色やね

第三日曜で定休日。高速道路を走って、この春、福岡に就職した娘に会いに行った。会いに行く、などというと、少し大げさな感じがするが、最近、父親らしくふるまうのも父の務めのような気がするようになってきた。微妙な年頃なのである。アパートは市役所のそばに建っていた。入り口にカメラがあって、人相の悪い男が近づくと直ちに警備員が走ってくるという、バイオハザードみたいな仕掛けがセットされているらしかった。Photo_23エレベーターの横に、びびる看板があったので、ケータイに撮った。「ブログに載せるんじゃないでしょうね」と、娘にチェックされてしまった。だれに似たのかイヤな性格だ。ちょうど昼飯時だったので、隣の焼肉屋で定食を食べた。食べ終わるとすることがなくなったので「海にでも行こうか」と、提案した。「うみ~~?」芳しい返事は返ってこなかった。車は海に向かって走りはじめた。海が近づくにつれ、変な匂いがし始めた。見ると、海辺に大きな工場があり、高い煙突からモクモクと煙が出ている。堤防が見えてきた。きれいな海じゃなかった。もっと走ればきれいな色の海もあったかもしれない。車をUターンさせ、ショッピングセンターに行った。老若男女、たくさんの福岡の人が買い物を楽しんでいた。ぼくはなぜか福岡の人と相性がいいので、すぐになじんで、いい気分になった。娘に「ここはいいところだな、気に入ったよ」というと、笑っていた。

オトナの会話

Bossa_01これ、見ての通り、CDのジャケットなんだけど。ナゼか、とても好きな写真。二人のシルエットが大人びててイイでしょ?こういうシチュエーションで、どういう会話をするか。
ボクは、フランス映画風にいきたいね。

いつものことだけど、また変な夢を見た。
なんの脈絡もなく、ぼくは、直径1メートルほどの、石積みの塔をどんどん昇っていく。塔と言っても、その辺に転がっている大きめの石を、ただ重ねただけのもので、のぼっているとぐらぐらする。ついに頂上に達した。恐るべき高さだ。ぼくは降りることができずに茫然とする。すると、後方の空から馬が飛んできた。1頭、2頭、3頭、4頭。次々と飛んでくる。もちろん普通の馬じゃない。背中には立派な羽根が生えていて、悠然と羽ばたきながら飛んでいく。ぼくは塔の頂上から、あきれてそれを眺めている。次の瞬間、なぜかぼくは空飛ぶ馬を追いかけていた。そこで終わった。まるで夢のような夢だった。

Memory Error

Vodka_01寝る前に酒を少々飲むのだけど、瓶の中の酒が驚くほど減っていて首をひねることがある。ほぼ毎日飲むから、前日の残量くらい憶えている。蒸発するのかも、と、フタをきつく締めるようにしたが、改善されない。つい、家人に「飲んだ?」と聞いてしまう。答えはノー。家人はウォッカを飲まないし、料理にも使わない。考えたくないことだが、脳の記憶システムに問題がある可能性がある。

73

父が入院した。スーパーをうろついてたら、ふらふらしたので病院に行って診てもらったところ、血糖値が高く、すぐに入院しろといわれたそうだ。ぜんぜん、マッタク心配していない薄情な息子ではあったが、仕事が終わると店を閉め、とりあえず見舞いに行った。病院は大の苦手だが、夜の病院はそうでもなかった。暗く長い廊下を歩く。だれともすれ違わない。病室の番号を聞くのを忘れてたので、各病室にかかっている名札を見ながら、一階から順に部屋を回り、階段を上がった。三階で若い看護婦と鉢合わせになったので、聞いてみた。
「ワタシもちょうどそこに行くところだったので、いっしょに行きましょう」
白いマスクの似合う、20代前半のカワイイ看護婦だった。父の部屋は個室だった。テレビも冷蔵庫もなく、ヒマそうに寝転がっていた。
「老人のフリをするのはやめてくれよな」
イスに座り、うんざりした顔でぼくがそういうと、父はニヤニヤしていた。ずいぶん長いこと付き合っているが、父の正体はいまだにつかめない。ナニを考えてるのか分からない。人の得意技をばらすのは良くないかもしれないが、父は、バカのフリをして相手を油断させ、隙を窺うという姑息なワザが得意である。最近は作戦を変更し、必要に応じてボケ老人を演じているようだ。
まともに相手をしているとえらい目にあう。