今日は定休日。
昼前、江口浜の蓬莱館に行った。屋外のデッキに出て、陽光を浴びながらの食事。夏とはまるで違う。太陽は遠ざかり、遥か彼方で弱々しく輝いている。まるで火星に来て食事をしているような気分だ。火星にはまだ行ったことないけど。
食事を終えて、海に出た。堤防に腰掛け、熱いコーヒーを飲みながら、遠くで漁をする小船を眺めていた。
20回
狭い室内に閉じこもったまま仕事をしているので、体力は衰える一方だ。そこで、毎朝ぼくは腕立て伏せをしている。20回。そして腹筋運動もする。これも20回。少ないだろうか。
少ないに決まってるよな。
怖いもの
ぼくの昼ごはんは弁当。きょうは、ゆで卵が一個、おまけに付いていた。なにかの本で読んだのだけど、紙に描かれた真円を見ると恐怖で体が震えだす人がいるらしい。理由は忘れた。また、緑色を見ると狂いそうになる、という人生相談への投稿を読んだこともある。
「ほんとうかしら、変な人がいるものね」
と、思う人もきっといるだろう。
しかし、ぼくはそう思わない。なぜなら、ぼくはニワトリのタマゴをじっと見ていると、気分が悪くなってくる。うまくいえないのだけど、あの物体には極度に張り詰めた緊張感がみなぎっている。長く見ていると吐き気がしてくる。
こういう自分と付き合うには、じっさい、骨が折れる。
赤飯
赤飯は、めったに食べることがない。
たぶん、今時どこの家庭でもそうなんだろう、とぼくは思っている。
「知り合いが誕生日なので、帰ったら赤飯を作ってあげるのよ」午前中いらしたお客様の言葉に、ぼくはハッとし、同時に懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
「赤飯?」
ぼくの驚いた声に、彼女もまた驚いたようだった。彼女はまだ若いのだけど、日本的な風情を身にまとった落ち着いた女性。いわく「そんなことに驚くあなたのほうがおかしい」そうだ。おめでたいことがあると、ごく当たり前のように赤飯を炊くらしい。悲しいかな、誕生日といえば、ぼくにはケーキしか思い浮かばない。
ぼくは間違っているのかもしれなかった。赤飯なんて、大正生まれのおばあちゃんか、懐古趣味にかぶれたヒマな主婦が作るもんだと思っていたからだ。
「よかったらいつでも食べにいらしてください」彼女は静かにそういった。
もしもピアノが弾けたなら
これはグレン・グールドですか?
眠そうな顔でコーヒーをすすりつつ、Sさんはそう言った。店内に流れていたバッハのピアノ曲はまさにそれだった。彼はTVカメラマン。36才。5年前の「ナマイキVOICE」取材以来のお付き合い。今日はじめて知ったのだけど、彼はピアノが弾ける。5年ほど前、シオノヤサトルというピアニストの取材をした際に甚く感動し、自分でもピアノを弾きたくなったのだそうだ。さっそく中古のアップライトを10万円で購入してハノンの練習曲に明け暮れた。とまあ、ここまでならありそうな話なのだが、その2年後、タッチが違う?とやらで奥様には相談なしに新品のYAMAHAグランドピアノを購入。当然奥様は激怒し、そのピアノは敷居をまたがせません、と宣言されたそうだ。その後の詳細な経緯は聞かなかったが、グランドピアノは無事、自宅に納まっているという。恐ろしいことをするものだ。今流行の熟年離婚候補No.1に彼を推薦したいと思う。ちなみに、彼の情熱の影響を受け、ぼくもピアノの練習をはじめようと思っている。
ショウノウ
急に寒くなったせいで、お店にいらっしゃるお客さんの装いが急変した。箪笥の奥から取り出したのか、ナフタリンの匂いをプンプンさせながらいらっしゃる。ナフタリンは臭い。現在は、強い匂いを嫌う風潮があるから、その命運は知れている。いや、すでに蚊取り線香同様、レガシーアイテム化し、間もなく永い眠りに就こうとしている。
知らない人も多いと思うけど、樟脳(ショウノウ)の代用品としてナフタリンは登場した。ぼくは樟脳を良く知っている。洗面器に水を張り、親指大のセルロイドの船を浮かべて走らせる。エンジンは樟脳。的屋(テキヤ)のテクノロジーで走行する。
こんなこと書いても誰も知らんだろうけど。
酒とバラの
明日は勤労感謝の日。
そう言われてもピンと来ない。
祝日には関心がないので、昨日まで知らなかった。
「勤労感謝」の日。言いたいことはよくわかるのだけど、なんだか教訓じみていやらしい。いっそのこと、逆説的にモジって「酒とバラと昼寝の日」なんてのはどうだろう。いかにも「祭日」らしくて好きになれそうなんだけど。
ちなみに、明日も仕事です。
だれもいない海
コーヒーをポットに詰めて南に走った。指宿に入った頃、突然、池田湖のソフトクリームを食べたくなって右折。正午過ぎだというのに、太陽が低いせいで、湖面が銀色に輝いている。ソフトクリームをなめながら駐車場を見回すと、うろついてるのは年寄りばかり。イッシー君もボロボロ。せつない。天気がいいので、どこまでも走れる気分。車は枕崎に向かって走り出した。選んだBGMは井上陽水の「GoldenBest」。雲ひとつない真っ青な空に渇いた陽水の声がマッチしていた。ぼくの目的地はいつものように吹上浜。砂丘を越えて海に出る。風が強かった。だれ一人いない。こんなに広い砂浜にだれもいない。長い時間、風に吹かれていたら、ハナが垂れてきた。
ジブリ
今夜は、つい先ほど思いがけず手許に届いた「ハウルの城」を見ることにした。宮崎アニメは日曜日の夜に観るのが最もふさわしい。ような気がする。ところで、ジブリ作品のエンドロールには知人の名前が顔を出す。それは東京にいたとき、お隣に住んでたお嬢さん。そのとき彼女はまだ学生だった。さっきネットで検索したら、某新聞のインタビュー記事で楽しそうに話していた。宮崎監督や久石譲さんを相手にバリバリやってるらしい。ずいぶん出世したものだ。「将来、どんな仕事をしたいの?」と彼女が聞いたとき、ぼくは「映画を作りたい」と言った。当事ぼくは、8ミリカメラに凝っていたからだった。「すごーい」なんていわれて、まんざらじゃなかったぼく。今考えると情けない。そして今、彼女は映画作りに携わっている。
かつおのたたき
高知の友人から「かつおのたたき」が届いたので、さっそく夕餉に供することにした。いうまでもなく、「かつおのたたき」といえば、土佐もそうだが当地薩摩の名産品。何でまた…と、苦笑いしながら、土佐の「かつおのたたき」をほおばった。
やや、これは!
おどろいた。残念ながら、今までにぼくが食べたどの「たたき」よりうまい、と感じた。さっそく友人に電話すると、「評判の店のやつじゃからのう」とのことだった。おそらく、その店の料理の仕方がいいのだろう。日本も広いな、と思わせる秋の夕餉でありました。