いい天気になってきた。空気も澄んでいる。
こんな日はズックの靴を洗い、お天道様で乾かしたい。
できたら脳みそもきれいに洗って風にさらしたい。
ヒモの夢
女性が男性に向けて書いた文章を読んでいると、どういうわけか、あるものが頭に浮かんでくる。歯磨粉をチューブから出すのに力がいるように、文章も混沌から形を成して世に現れるには相当のエネルギーが要る。絶えずゆれ続ける揺りかご。揺りかごをゆする手。そのエネルギーはどこから来るのか。女性が男性に向けて書いた文章の行間には、揺りかごをゆする手の痕跡がみえる。
ぼくは今日も揺りかごにゆられて、なれもしないヒモの夢を見る。
微熱
こんなこと書くと、まずいんじゃないだろうかと思いながらやっぱり書いてしまう。つまり、うちの店に来る女性はみな魅力的だ。困ると言ってもいい。今日も朝からノーミソを揺さぶられっぱなしだ。こんな環境で仕事を続けることが果たして幸せなことなのか、時々考えてしまう。
靴の中の住人
朝起きると月曜の朝だった。カーテンを開けると空は雲で覆われていた。雲の正体をご存知だろうか。もちろんワタアメではないが、勇んで「水蒸気!」などと答えると子供に笑われる。あれは水や氷の粒の集まりである。ついでに言うと湯気も水滴の集まりだ。というわけで、温泉に出かけた。月曜の昼だというのに混んでいる。八つある貸切風呂のうち、二つしか空いてない。やれやれ。平日の昼間はマジメに仕事をしていただきたいものである。ヒノキの湯船の部屋と、ツボみたいな湯船が2個並んだ部屋が空いていたので、迷わずヒノキにした。写真のキュートな足はぼくの足。長年使ってるので、ややくたびれている。足には口がないからしゃべれないが、うれしそうに見える。でしょ?
朝の音楽
オリオン座
さっきまで星空を眺めていた。
静かにオリオン座が輝いている。
西に傾いたオリオン座を見ると胸が締め付けられる。
思い出してはいけない何かを思い出しそうになる。
バッハ
今日はモーツァルトの誕生日。
はじめてDVDプレーヤーを購入したとき、最初に買ったDVDソフトがアマデウスだったような気がする。しかし、このDVDソフトは画質が悪く、音質も良くない。テレビで見ていたときは気にならなかったのだけど、スクリーンに映してがっかり。
だから今夜は、彼の音楽を聴くだけでガマンすることにした。
今思い出したのだけど、むかし、ラジカセのテレビCMでこんなのがあった。中学生の男子が、自分の部屋に彼女を招待する。彼は最近買った、音の良いラジカセを自慢したくてしょうがない。
彼女がラジカセから流れている曲にウットリ聞き入っていると、彼はいきなり別の曲に変えてしまう。
「ほら、ピアノ曲だって、きれいだろう」と、男の子が自慢する。
「そうね、ピアノの音、とてもきれいだわ」
しかし、彼女が聞き始めると、すぐに別の曲に変えてしまう。
「どう?人の声は。まるで本当に歌ってるみたいでしょう」
「ほんと、そこで歌っているみたい」
彼女が聞き始めると、すぐにまた違う曲に。
彼女がうんざりしていると、
「きみ、なにか聞きたい曲はないかい?」と、彼。
「もう疲れたわ」
「え?モーツァルト?」
「バカ」
「え?バッハ?」
ナイトキャップ
south bound
いい日旅立ち
今じゃ谷村新司を知らない人も多いと思うが、友人の一人がこの谷村新司によく似ている。今日も配達のついでに店にやってきた。
「トウフ、いるね?」
これが彼のいつもの挨拶。
彼は薩摩半島の山奥にある川辺という町で豆腐を作っている。水がうまいからだそうだ。水にこだわり、豆にこだわり、女にもこだわった、かは知らないが、奥さんはかなり美人である。じつは、ぼくがサラリーマンをやめたきっかけのひとつが、彼の仕事に対する姿勢だった。サラリーマンだった頃、ぼくには彼が変人に見えた。彼は金のために仕事をしている様子がまるでなかった。彼は自分の仕事に対して頑固な哲学を持っていた。その時初めてぼくは気づいた。ぼくには仕事に対する哲学がまったくないことを。ぼくは、このままじゃいけないような気がしてきた。旅立つ日が来たのを予感したのがこのときである。