ぼくのいいところは、欠点が多いところだ。だから、いいともだちが多い。ともだちも欠点だらけだ。だから気楽につきあえる。欠点のないやつはいない。多かれ少なかれ嫌なところがあり、問題がある。親友の一人は暴走族のリーダーをやって暴れ回っていた。でも、友人の中のだれよりも気がつく、やさしいおとこだ。親友の一人はいまだに塀の中にいるが、彼は友人のだれよりも動物好きで、小さな命を大切にする。親友の一人はとにかく口が悪い。ぼくの悪口ばかり言う。ぼくを怒らせて喜んでいる。しかし、ぼくが困っている時は、昼夜かまわず駆けつける。ともだちは、いつの間にか育つものだ。嫌な欠点や問題を肥料にして。肥料は臭く苦いかもしれない。でも、肥料なしでは育たない。
カッコワルイ
やっとおわった。やはりぼくはカッコよく生きられなかった。親友の一人が多大な借金を抱え、にっちもさっちも行かなくなっていた。会うたびに死にたいと漏らした。ぼくはどうすればいいのだろう。いろいろ方策を練ったが、いい案はないのだった。結局、ぼくにできることといえば、彼の借金の一部を肩代わりすることだった。簡単なことだ。深夜、「今オレは港にいる」という電話があった。それきり電話はつながらなくなった。車を飛ばし、堤防付近をずっと見て回った。海に飛び込みかねない様子だった。フェリー乗り場の待合室に彼を見つけ、家に連れ帰って泊まらせた。ともだちならどうする。持ってる不動産を売り、残債を引いて、少なくとも2000万は準備できる。彼の借金もそれくらいだ。親友とはいったいなんだろう。ぼくは決断できなかった。親友は店に来るたびに死にたいという。職もみつからない。夜中に目が覚める日が続いた。彼がかわいそうで悩んでいるのではなかった。自分の保身を優先する自分が許せなかった。今日、その友人が来た。いつもと様子が違う。死にたいとも言わない。明るかった。何かが見えたらしかった。ぼくはホッとした。でも、自分の醜さが変わったわけではもちろんなかった。彼は助けを求めた。ぼくは彼を助けなかった。彼にとって、ぼくは親友ではなかった。ぼくはカッコよく生きることはできない人間だった。
発火
青春時代。自分が何をやっているのか分からなかった。過去も未来もなかった。今がすべてで、遠くを見る余裕などなかった。ただただ、地面を這いまわっていた。虫は火に飛び込んで死ぬ。人は自ら発火し、自分を焦がす。時は過ぎた。今は同じことをやっても、どこかオモシロ半分な不真面目さが付きまとい、発火することがない。煙も出ない。作戦を変えなければ。
くしゃみ
風邪をひきかけているのか、くしゃみが良く出る。
そんな時、やっぱりというか
む、だれかウワサしてるな
などと思う。
大地の声
吹きすさぶ風。砂が舞い上がり、前が見えない。ぼくは砂漠を歩いている。人の言葉が心の奥深くに達することは稀だ。せいぜい最初の門で力を失い、風のように消える。魂の扉をたたくことさえできない。たしかに扉は扉として機能している。それはかけがえのないものを守っている。やさしさは透き通ったからだの向こうにある。人の中にそれを見つけようとしても、そこにはない。やさしさは人の中にはない。大地の声。感謝と畏れの念を抱かせるもの。それは人を通して聞こえてくるが、人の中にはない。創られたものは創ったものに勝ることはない。大地の声。扉はその時、開く。
防波堤にて
ズボンを洗濯しようとしたら、尻の部分が破れかけていたので新しいズボンを買いにでかけた。試着したところ、すその補正は不要であった。一本3000円、二本で5000円だという。悩んだ末、同じズボンを二本買ってしまった。ズボンを買ったその足で、ぼくは南に向かった。1時間弱で指宿の某家族湯に到着。一人で家族湯を利用する人はいるだろうか。背中に唐獅子牡丹をペイントしてるわけでもなく。ぼくが家族湯を利用する理由はほかでもない、湯をぬるくすることができるから。ぼくは熱い風呂が嫌いだ。むかし、銭湯の湯が熱かったので、水をじゃんじゃん入れていたら、偏屈なオヤジにドえらく叱られた。それがトラウマになって、ぼくは銭湯に行かなくなってしまった。家族湯に一人きり。湯舟に浸かって空を見ると、ずいぶん高いところでトンビが輪を描いている。いい気分だった。ふいに、木塀を隔てた隣の湯から声がしはじめた。若い女性が二人入ってきた模様である。二人で盛んにしゃべっている。ぼくは塀の隙間から覗いてみたが、向こうは見えない仕掛けになっていた。ぼくは彼女等の声を聞き流しながら、ゆったりと湯舟でくつろいでいた。すると、女性二人の会話に突如、若い男の声が加わった。ぼくは仰天した。いったい隣は、どんな家族なんだろう。
温泉を出て、池田湖を見下ろす静かな公園に車を走らせた。ポットに詰めてきた熱い珈琲を飲みながら、沈んでいく夕日を眺めていた。心に散らばってしまった様々な事柄が、一つ一つ所定の位置に納まっていく。ところで、今日の目的は、フラワーパークのイルミネーションを見ることなのだった。太陽が沈み、あたりが暗くなると、ぼくはまた車を走らせた。開聞岳の麓を走りぬけ、左カーブを曲がり、フラワーパークの入り口にさしかかった…と思ったら、門にロープが張ってある。なんと、閉館していた。イルミネーションは土日だけなのだろうか。ぼくは死ぬほどがっかりした。ぼくは最近、よく死ぬ。しかたなく、指宿休暇村の防波堤に座って、ぼんやり月を眺めていた。風が死ぬほど冷たかった。
微熱少年モード終了
人生いろいろあって、ぼくはそれぞれの状況に適応するモードを選んで自分を変化させているわけだけど、とりわけ気に入ってるのが「微熱少年モード」
ぼくの中の微熱少年は、たとえば心にダメージを受けると、それを独自の美学を駆使して変換し、芸術の域にまで昇華させる努力をする。現実はみっともない状況であっても、それをまるでフランス印象派の絵のごとく、原色の粒子を星のようにちりばめて表現しようとする。たとえば、描こうとする絵の中をニワトリがひょこひょこ歩いていると、それを白く輝く白鳥に変換して配置する。そのあたりをヌケヌケとやって涼しい顔をしてるのが、ぼくの中の微熱少年なのです。
あと2~3日続けたかったのですが「そんなもん、さっさとやめなさい」と声がかかったので、やめます。
湯気
店の暖房を入れた。
この冬初めて。
ぼくは寒さがあまり分からないのだけど、今日はどうも寒いような気がする。
お客さんに聞いてみた。
「店の中、寒くないですか?」
「寒いですね」即答だった。
すぐに暖房を入れた。
冬だ。
いれたコーヒーから白い湯気が立ち昇る。
あたたかさが恋しくなる季節。
北風
寒いな
コートをどこかに置いてきてしまった
だけど風、止まないでくれ
話す相手が欲しいから
君はいつも一人
わかるだろう?
話し相手になってくれ
あの海へ
今度の休みは、海に行こう
砂浜に座って、波の音を聞こう
つかれた君を休ませてあげる
ゆっくりとだけど、安らぎはきっとくる