青りんごタイムマシン

このまえから店で使っている洗剤は、青りんごの匂いがする。
コーヒーカップを洗うたびに、青りんごの匂いが立ち昇る。
すると、思いがけず、むかし住んでたアパートを思い出す。
風景が浮かぶというより、今がその時になったような錯覚を起こす。
そこでぼくはその洗剤を「青りんごタイムマシン」と命名した。
他にも、ここに書けないようなことを思い出す匂いがある。
たとえば、コパトーンタイムマシンとか。

ブログの効用

昨日は、どうでもいいようなことを一生懸命考えていた一日だった。で、その結果、答えのようなものが見つかったかといえば、疲れただけ。小さなスプーンで穴を掘ってるような気分だ。すくって邪魔になった土が穴の周りに積みあがっていく。その一部は、時々ブログに記される。なんだか無駄な作業に見えるが、そうでもない。なぜなら、昨日はこれで良い、と思って述べた考えが、今みると、ひどく偏狭なものに見える。ブログも消し去ってしまいたいと思う。昨日のぼくと今のぼくは違う。

同じ方向を

ひまだったので、お客さんからお借りしていた河合隼雄「イメージの心理学」を読んでいたところ、次のような文に出会いました。心理療法についてのくだりです。
…現代人がその喪失に悩んでいるような関係が、治療者とクライエントの間に成立すると、過程が動きはじめる。そのときにまず詩的言語を語るようになるのはクライエントのほうであろう。とすると、それを小説の場合になぞらえると、クライエントが作家であり、治療者は読み手ということになる。この両者の関係について、大江健三郎は次のように述べている。「小説をつくり出す行為と、小説を読み取る行為とは、与える者と受ける者との関係にあるのではない。それらは人間の行為として、両者とも同じ方向を向いているものである。書き手と読み手とは、小説を中において向かい合うという構造を示しているのではない」… P196
治療者とクライエント、小説の書き手と読み手。それは、
「向かい合うのではなく、同じ方向を向いている」というのです。
これはけっこう深い示唆を含んでるな、と思いました。
サン・テグジュペリが「人間の土地」で、こう言ってるんですね。
「愛するとは、向き合うのではなく、同じ方向を向くことだ」って。
愛することの難しさ。ぼくは、そのイメージがうまくつかめなくて、いつも悩んでいるのです。まるで星の王子さまみたいでしょ?(笑)
ところで、この本、もしかして村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」のモチーフになってるのでは?ちょっと気になりました。

雨の夢

雨が降っている夢を見た。音を立てて降る激しい雨。なぜかそれを喜んでいるぼく。でも、おかしいな、と思い始める。天気予報は晴れだったのに、と。そこで目が覚めた。すぐにカーテンを開け、窓をあけた。ポスターみたいな、平べったい青空が広がっていた。乾いていく植物たち。植物に心はないのだろうが、かわいそうに思う。

化石

061016_06昨日は久しぶりに海に行った。時間を忘れて遊んだ。気がついたらあたりは暗くなっていた。堤防に座り、海に沈む夕日を見ていた。海は凪いでポチャリとも音がしない。ぼくをのせた地球は音も立てずに回転している。赤い太陽は、やがて海に沈んだ。一日の終わりは、うそのように静かだった。061016_05_1今日になって気づいた。頭の中がすっきりしている。もやもやした、つまらない感情が消えていた。写真は砂浜に落ちていた、人の臓器、心。化石化していたのを丸木浜で拾った。

reflections

061016_01
雲ひとつない空。車は峠を超え、山をくだり、広い真っすぐな交差点で止まった。時々、胸のどこかが痛くなるのはキンモクセイの匂いのせい。なぜだろう、いろんなものが距離を縮め、ぼくの体と同化しようとする。いつもなら、距離を保って自分の外に置いておけるのに。今日のぼくは、そういう力が弱っている。061016_02海岸線を走っていると、春じゃないのに、桜の花がたくさん咲いていた。でも、今日は、それが当たり前のように感じられる。ぼくの世界は反射し、リバースする。反射した光は何を失ったのだろう。061016_03

ひげ

「帰りに、いつものを1キロ」
月二回の割合で、店じまいをする頃にかかってくる電話。
ぼくはいつもの豆を袋に詰め、彼の家に寄った。
彼の家は通勤路の途中にある。
ピンポーン
しばらくして開いたドアの向こうで、男が微笑んだ。
「うっ」
ぼくは言葉に詰まった。
「へっへっへー、どお?似合うでしょ」
いつもツルツルの顔が、ヒゲもじゃ。
「いちお、船長だし。このほうが似合うと思って」
船長=ヒゲづらなのか?
そういえば、海賊の親玉はたいていヒゲづらだ。
もしかすると、ぼくだってヒゲづらのほうが仕事にマッチするのかもしれない。する気はないけど。

午後五時の部屋

061013午後五時を過ぎた頃に、機械の部屋に夕日が差してくる。あたたかい黄金色の光が、部屋を満たす。光に包まれていると、遠くでざわめく音が聞こえてくる。ちいさい頃に、いつも聞いていた音。何の音か分からない。心臓の音のような、海の音のような。

ボサノバの夜

お酒があれば、さらに良いのだけど。
一人の夜。
開けた窓から吹き込む風がやさしい。
音楽は、スローなボサノバ。サックスの音。
彼女は夜の声でやわらかく歌う。
あなたのこと、知ってるわ。
知っているって、なにを。
ぜんぶよ。
それでやさしいのか。きみは。