男の世界

お盆が近づいてきた。
お盆にはお店の大掃除をする。
珈琲を焙煎する機械も分解し、ススを落とす。
プロ用の機械というのは、とても頑丈に作ってあるので重い。
それを、ヒイヒイ言いながら分解し、スクレーバーとブラシで掃除する。
数年前までは、機械の分解掃除と煙突掃除を一日で済ませていた。
しかし、去年から機械の分解掃除は先にやっている。
暇な時間に、部分ごとに少しずつ分解、掃除、組み立てを終わらせていくのだ。
煙突掃除は服が汚れるので一気に行う。
ねじ回しや、スパナといった工具を使うのだが、なかなか楽しい作業だ。
たぶん、女性には分からない世界だと思う。

日曜日の朝

昨夜飲んだワインのせいで、なかなか起きれない。
8時前だというのにまだベッドの中。ぼくはまだ寝ていたい。
寝室のドアを開けると朝日が差し込む。
そう設計したので、天気のいい朝はそうなる。
ぼくより先に起きた人がドアを開け閉めするたびに、部屋が真昼のようになる。
開いたドアの方で人の声がした。「8時だよ」
ぼく専用の目覚ましは、人の声である。
そういうふうに人生を設計したつもりなので、そうなる。

海日和

午前中は忙しかったが、午後からは猛烈にヒマだった。
あのひと、このひと、そのひと、某新聞社の取材、ポツリ、ポツリ、ポツリ…
数えることができるくらいの人数であった。
外はとってもいいお天気なのだった。ぼくが休みだったら吹上浜で泳いでいるだろう。
つまり、健全な老若男女達はカーステレオにチューブのCDを突っ込んで海に出かけたのである。

スローなブギにしてくれ

もうすぐお盆だ。
夏も終わりが近い。
ぼくの中では始まったばかりの夏なのに。
なんでこんなに時が過ぎるのが早いのだろう。
もう少しスピードを落としてくれないだろうか。

トリップ

家に帰り、屋上に上がって杏仁豆腐にウォッカを入れて食っていた。
変だ。何かがおかしい。不安だ。
日はとっくに落ちて、暗い空をちぎれ雲が流れている。
いつもなら西から東に流れる雲が今日は逆に流れているのだった。
不安の原因はそれだった。
ビデオを逆回しに見ているような感じ。
時間が逆に流れ出したと思った。

おうちに帰ろう

今日はスムースに店じまいが出来たので、早く帰ることが出来た。
黄昏時の道路はどこか非日常的なムードに包まれている。
子供が歩いているが、暗くてその表情は読み取れない。
切絵がうごいているような錯覚を覚える。
家に帰りつく数キロ前にトンネルがあり、そこを抜けると急に気温が下がる。
緩やかな坂を下り、そしてのぼる。やがて幕が上がるように西の空が開ける。
ぼくは宵の明星に向かってアクセルを踏み込んだ。

先生の逆襲

今日は休みだったが、3時半から高2の息子の三者面談があるとのことで、休み気分に浸るわけにはいかなかった。
いつもなら海に向かってひたすら走っている時間、ぼくは天文館の本屋とレコード屋をぶらついていた。
本屋ではしばらく立ち読みし、雑誌を買った。レコード屋ではボサノバのCDを買うつもりが、そばにあったスチールドラムのCDに目が移り、そのまた横のslack key guitarというCDに目が行ってそれを買った。
どこか見晴らしのいいところでアイスクリームを食べたくなったので城山の展望台に上がり、100円のモナカを買って食べた。3時半が近づいた。三者面談は校内の図書館で行われた。順番を待つ間、書架にあった村上春樹のアフターダークを読んだ。順番が来た。先生と話すのは苦手なので黙っていたのだが、ぼくがつまらないことを言ったせいで先生は猛然としゃべりだした。前の親子が20分くらいで終わったのに、なかなか終わらない。「実はクラスにもう一人変わったおとうさんがいて…」と、先生が話しかけたところで図書館の先生が「もう閉めますから」と注意した。5時半になろうとしていた。

雨のコーヒー

今日も朝から雷雨
古いものは疎ましいといいながら、今日は1969年に流行った歌謡曲のCDをかけた。
これが実に雨の情景に似合うのであった。
不思議だ。
いや、不思議ではなかった。理由があった。
聞いてみると当時ヒットした歌謡曲には「雨」というワードが使われている曲が多いのだった。
雨は嫌いじゃないが、続くと飽きる。

ヘヴィー・ウェザー

昨日の最高気温は35.8度だったそうだ。
特に意味はないが、これはぼくの平熱と同じである。
あいかわらずアイスクリーム日和が続いているのだった。
が、今日は朝から激しい雷雨となった。
土砂降りだ。
そのせいだ、と信じたいのだが、午前中は土曜だというのにお客様は一人もいらっしゃらなかった。
やぁね。

陽はまた昇る

昼ごろ、仕入先のI氏が来た。
カウンターに腰かけると開口一番、タカナカのいいCDを買った、とにやけた。
じゃあ貸して、と言うと、
買ったばかりで今聞いているから今度また、と言う。
ぼくの表情がにわかに曇ったのに気づいたのか、
別のを貸しましょう、アクアプラネット。知ってます?これはなかなか最高ですよ。
と言って車に引き返した。
カウンターには若い女性が座っていたが、彼女はタカナカなんて知らない。
ぼくとI氏はタカナカを聞きながらコーヒーを飲んだ。隣の女性もいっしょに飲んだ。
古い音楽に包まれるのは気持ちがいい。着慣れたジャケットのような安心感がある。
でも、それは沈もうとしている夕日の写真をぼーっと見ているのに似ている。
それは沈むだけで再び昇ることのない太陽。
若い女性が帰ったあと、ぼくとI氏は暗い顔で言葉を交わした。
何とかしなくちゃね。
最近、古いものが疎ましく感じられる。