怖いもの

ぼくの昼ごはんは弁当。きょうは、ゆで卵が一個、おまけに付いていた。なにかの本で読んだのだけど、紙に描かれた真円を見ると恐怖で体が震えだす人がいるらしい。理由は忘れた。また、緑色を見ると狂いそうになる、という人生相談への投稿を読んだこともある。
「ほんとうかしら、変な人がいるものね」
と、思う人もきっといるだろう。
しかし、ぼくはそう思わない。なぜなら、ぼくはニワトリのタマゴをじっと見ていると、気分が悪くなってくる。うまくいえないのだけど、あの物体には極度に張り詰めた緊張感がみなぎっている。長く見ていると吐き気がしてくる。
こういう自分と付き合うには、じっさい、骨が折れる。

赤飯

赤飯は、めったに食べることがない。
たぶん、今時どこの家庭でもそうなんだろう、とぼくは思っている。
「知り合いが誕生日なので、帰ったら赤飯を作ってあげるのよ」午前中いらしたお客様の言葉に、ぼくはハッとし、同時に懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
「赤飯?」
ぼくの驚いた声に、彼女もまた驚いたようだった。彼女はまだ若いのだけど、日本的な風情を身にまとった落ち着いた女性。いわく「そんなことに驚くあなたのほうがおかしい」そうだ。おめでたいことがあると、ごく当たり前のように赤飯を炊くらしい。悲しいかな、誕生日といえば、ぼくにはケーキしか思い浮かばない。
ぼくは間違っているのかもしれなかった。赤飯なんて、大正生まれのおばあちゃんか、懐古趣味にかぶれたヒマな主婦が作るもんだと思っていたからだ。
「よかったらいつでも食べにいらしてください」彼女は静かにそういった。

もしもピアノが弾けたなら

これはグレン・グールドですか?
眠そうな顔でコーヒーをすすりつつ、Sさんはそう言った。店内に流れていたバッハのピアノ曲はまさにそれだった。彼はTVカメラマン。36才。5年前の「ナマイキVOICE」取材以来のお付き合い。今日はじめて知ったのだけど、彼はピアノが弾ける。5年ほど前、シオノヤサトルというピアニストの取材をした際に甚く感動し、自分でもピアノを弾きたくなったのだそうだ。さっそく中古のアップライトを10万円で購入してハノンの練習曲に明け暮れた。とまあ、ここまでならありそうな話なのだが、その2年後、タッチが違う?とやらで奥様には相談なしに新品のYAMAHAグランドピアノを購入。当然奥様は激怒し、そのピアノは敷居をまたがせません、と宣言されたそうだ。その後の詳細な経緯は聞かなかったが、グランドピアノは無事、自宅に納まっているという。恐ろしいことをするものだ。今流行の熟年離婚候補No.1に彼を推薦したいと思う。ちなみに、彼の情熱の影響を受け、ぼくもピアノの練習をはじめようと思っている。

“もしもピアノが弾けたなら” の続きを読む

ショウノウ

急に寒くなったせいで、お店にいらっしゃるお客さんの装いが急変した。箪笥の奥から取り出したのか、ナフタリンの匂いをプンプンさせながらいらっしゃる。ナフタリンは臭い。現在は、強い匂いを嫌う風潮があるから、その命運は知れている。いや、すでに蚊取り線香同様、レガシーアイテム化し、間もなく永い眠りに就こうとしている。
知らない人も多いと思うけど、樟脳(ショウノウ)の代用品としてナフタリンは登場した。ぼくは樟脳を良く知っている。洗面器に水を張り、親指大のセルロイドの船を浮かべて走らせる。エンジンは樟脳。的屋(テキヤ)のテクノロジーで走行する。
こんなこと書いても誰も知らんだろうけど。

酒とバラの

明日は勤労感謝の日。
そう言われてもピンと来ない。
祝日には関心がないので、昨日まで知らなかった。
「勤労感謝」の日。言いたいことはよくわかるのだけど、なんだか教訓じみていやらしい。いっそのこと、逆説的にモジって「酒とバラと昼寝の日」なんてのはどうだろう。いかにも「祭日」らしくて好きになれそうなんだけど。
ちなみに、明日も仕事です。

かつおのたたき

高知の友人から「かつおのたたき」が届いたので、さっそく夕餉に供することにした。いうまでもなく、「かつおのたたき」といえば、土佐もそうだが当地薩摩の名産品。何でまた…と、苦笑いしながら、土佐の「かつおのたたき」をほおばった。
やや、これは!
おどろいた。残念ながら、今までにぼくが食べたどの「たたき」よりうまい、と感じた。さっそく友人に電話すると、「評判の店のやつじゃからのう」とのことだった。おそらく、その店の料理の仕方がいいのだろう。日本も広いな、と思わせる秋の夕餉でありました。

気になる写真

毎週届く、某フリーペーパー。いつも気になるのが、某アカデミーのハイレグ水着の写真。
スゴイ。登場する女性の脚が信じられないくらい、長い。
夕方、フリーペーパーの某青年がやってきたので聞いてみた。
ぼく 「あれはフォトショップかなにかで脚を伸ばしてるんだろう」
某 「違いますよ」
ぼく 「カラダとアタマを合成してんじゃないの?」
某 「まさか…普通のプリント写真で送られてくるんですから」
「ふーん」
ぼくは気を取り直し、表紙右上の写真を指差して言った。
この写真もすごいね。こんな顔載せたらモデルが怒るだろう。
某 「誰も怒りませんよ」

28ミリの選択

昼過ぎ、友人N君がやってきた。そのとき、店はお客様でごった返していた。彼は壁際の丸テーブルに腰掛け、書類に何か書き込みながら、この騒ぎが収まるのを待っている様子だった。しかし、こういうときに限ってお客様が次々にいらっしゃって、なかなか引かない。彼はあきらめて「夕方また来る」といって帰っていった。何か言いたげな顔だったのが気になった。またなにか変な事件に巻き込まれているのでは、と、ぼくは暗い気分になった。夕方、店じまいをしているときに彼は現れた。カバンから大きな茶封筒を取り出してカウンターに載せ、憔悴しきった顔でぼくを見上げた。
「迷ってるんだ」
封筒の中身はデジタルカメラのカタログだった。
「28ミリの広角レンズ付きで選ぶと、リコー、キャノン、パナソニックの3つしかない。どれがいいと思う?」
彼は何か手に入れるとき、いつも徹底して迷い続ける。学生時代、彼とダイエーに行った際、彼が1000円程度のセーターを選ぶのに、たっぷり一時間かけたのを思い出す。
「パナソニックがレンズが大きくてかっこいいね」ぼくは言った。
「ぼくもそう思ってたんだ、それにしよう」彼の顔はみるみる明るくなった。

Boas Festas

11月も半ば。やっと寒くなってきた。
あとひと月もすれば、クリスマス。
寒いのは嫌いだけど、もうすぐクリスマスだよ、って気分は大好きだ。
そんなわけで、きょうのBGMはクリスマスソング。
5年前のアルバムだけど、小野リサのBoas Festas。
小野リサだから、もちろんボサノバ。
ボサノバといえば、あたたかい南の国。
ボサノバでクリスマスソング。ほんわかしていい気分。
もうしばらくすると、山下達郎のアレや稲垣潤一のソレ、ワムのコレなどが耳に入るようになるんだろうな。

ケーキの思い出

ケーキ、パン、パイ。
手作りのものをいただくととてもうれしい。
ずいぶんむかしのことだけど、手作りのケーキをもらった。
ほのかに、香水の匂いが混じっていた。
それがとても印象に残っている。
そういう変なケーキはそれ以来、一度も食べてない。
香水の匂いのするケーキ。
ちゃんとした店には売ってない。