ワンコの目

店にいらっしゃるお客様は、どなたも口をそろえて「外は寒い寒い」とおっしゃった。ほんとに寒い一日だった。今夜はKさんちで忘年会。店を閉め、Kさんちに着いたのが午後8時。木の香り漂う新居には、ムク毛の子犬が走り回っていた。ぼくを見ると、怖がってしきりに吼えた。ぼくの目が怖いのだろう。そんな気がした。目を細め、満面に笑みを浮かべて口笛を吹いてみた。無視された。犬にもモテないなんて。多分ぼくは自分らしさを失っている。ぼくは子犬に教えられた気がした。乾杯して、ワインを飲んでいたら、すぐに酔ってしまった。酒にも弱くなっていた。食事をしながらおしゃべりしていると、いつの間にか、さっきの子犬がぼくの腕の中にいた。そしてぼくの顔をやさしくなめた。

プレゼント

雨は上がり、朝からあたたかい日差しが降り注いでいる。ガラス越しに空を眺めていたら、遠くに浮かんだ小さな雲がキャンディーの袋に見えた。あけてごらん。赤はイチゴ。青く透き通ったのはソーダ。白はハッカ味。ぼくへのプレゼント。

カーネーション

ここ数ヶ月、ぼくの趣味は皿洗いだ。いやがる妻を説得し、夕食後の食器類や鍋を洗っている。CDをかなりの音量でかけながら洗う。良くかけるのはモーツァルトのレクイエム。ラクリモサが終わる頃には、あらかた洗い終わる。きょうは井上陽水の「センチメンタル」を選んでみた。このアルバムには映画「かもめ食堂」に使われていた「白いカーネーション」が収められている。いつの間にか歌っているぼくがいた。カーネーション、お花の中ではカーネーション、一番好きな花。

風が吹いているだけ

聞き古したレコードをターンテーブルに載せる。
それは、ずいぶん長い時間、休みなく回り続けた。
いつもと寸分変わらぬ動作で、ぼくは静かに針を降ろす。
スピーカーから、いつもの音楽が流れ出す。
今日は定休日。
ドライブはそのようにして始まった。
冬の海。海に面したレストラン。だれもいない。
ぼくはもう知っているのに。
ぼくは同じことを何度も繰り返す。
何も変わらない。答えは出てしまっている。
同じ箇所を永遠に繰り返す
古いレコード。

悪いね

ぼくはタイクツが嫌いだ。
日曜日、お店は案外タイクツである。特に、朝から天気が好いと、心理学的にタイクツになることが多い。心理学者の河合隼雄もそういっている。かもしれない。一方、脳科学者、茂木健一郎は、タイクツは脳に必要な状態の一つ、といっている。ような気がする。ナニかを懸命に考えている最中には、ヒラメキは起きない。その集中から開放された状態になって、すばらしいヒラメキが起こる、というのである。つまり、脳に「ゆとり」が生じた状態、つまりタイクツな時に、それまで脳にインプットされた情報の処理結果が素晴らしい完成度でアウトプットされるのだ、と。
実は、こんなタイクツな話はどうでも良いのである。
ぼくはタイクツが嫌いだ。という話なのだ。で、どうするか。
あらかじめ、ひまそうなヒトにメールしておくのである。
「店に遊びに来ないケ」と。
タイクツを未然に防ごうというわけだ。
これは予防医学という観念の応用に過ぎない。
P.S.
今年、ぼくのタイクツを救ってくださったステキなMy Friendsのみなさん、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

年末っぽい

なんだかピンと来ないのだけど、いよいよ今年も終わりらしい。お客様の数は、いつもとそう変わらないのだが、年末年始の休みに備えて、ふだんの倍くらい豆を買っていかれる。そのせいで、昼過ぎには、いくつかの豆が売切れてしまった。明日からは多めに豆を焼かなくては。
と、いうわけで、ここで年末年始の休日の案内。
年内は29日(金)まで。明けての営業は5日(金)から、です。
よろしくお願いします。

見えないもの

Kazetabi_02仕事のあいまに、先日ネットで購入した「風の旅人」を読んでいる。ページをめくっていて、写真に目が釘付けになることがしばしば。ページをめくる手が止まる。感動しているわけだが、その理由が分からない。でも多分、それは言葉にしない方がよいのだと思う。整った言葉に置き換えて納得してはいけない。言葉にすると、大切なものが漏れ落ちる。逆説的だが、大切なものは目に見えない。

air pocket

冬至の前後に起こる落下については毎年のことだし、慣れたものだ。原因は空の様子とか風、気温、など、森羅万象に強く係わっている。すべてをのせた渦が静止し、ゆるやかに逆転を開始する。冬至の前後、ぼくは低空飛行をイメージしながら落下に備える。高度を保つためのエンジンにはエネルギーを送り続ける。
音楽、写真、絵画、詩、海。
そしてDance!Dance!Dance!

黒いシャツ着て

どこか翳のある人、を、シブく演じたいと思っているのに、なかなかそのようにならない。先日、ズボンを買ったついでに黒いシャツを買ったのだが、これを着ていると、
例えば、近所のA子は
「おお、良く似合うじゃん、ユニクロが」
なぜ分かるのだろう。ユニクロで1950円だったのだ。
また、あるお客様は
「いいわね、若く見えるわよ、あなた、いくつになったんだっけ。55?」
どうしてだろう。
ぼくの考えるボクのイメージと、他から見るボクのイメージには想像以上にギャップがあるということか。
最近、自分のイメージに自信が持てない。