どうやら今日は満月らしい。
おかげで、夜だというのに、ずいぶんと明るい。
「そうだ、月明かりで記念写真を撮ろう」
ぼくは屋上に出て三脚にカメラを固定し、セルフタイマーをかけた。だが、写った自分の顔に不満があった。銀縁メガネが異様に輝き、変質者のように見える。くそっ、こんな記念写真はボツだ。メガネをはずし、セルフタイマーをかけて再びポーズ。今度は若者風に撮れた。よーし、これでいいんだ。
アブナイ草
月齢 13
くもり空
今日は秋分。どこか南のほうに出かけるつもりであったが、空がどんより曇っている上に、昨夜飲んだ酒の影響で、脳がなかなか起動せず、けっきょく一日中、家に引きこもっていた。タマには引きこもるのも悪くない。ナニをしていたかというと、昨夜、帰りがけに買って来た、某リーズナブル価格の画像ソフトをいじくっていたのであった。知っている人は知っているし、知らない人は知らないことだが、画像ソフトは危険である。長くない人生をさらに短くする。熱中していると、あっという間に時間が経って、気がついたら、おじいさんになってしまうのだ。昼すぎに淹れたコーヒーを飲みながら、あれやこれやと低価格画像ソフトをいじっていたら、案の定、気がつくと窓の外は暗くなっていた。
たまには過去でも眺めてみるべぇ
あやしいヤツ
店にお客様がいないときは、店の外に出て写真を撮っていることが多い。首からカメラをぶら下げ、店の前の路地をうろうろしている。自慢じゃないが、ぼくは人相が悪い。昨日のことだ。隣家に咲いている花の写真を撮ろうと、首にカメラを下げ、道端に立って隣の庭をぼんやり眺めていた。そこに近くのマンションに住む若い主婦が自転車で通りがかり、眉をひそめて言った。
「怪しいよ」
「え?」
とっさのことで、ぼくは何のことかわからなかった。
昨夜は月が出ていたものの、星がよく見えた。ぼくはふと、月が沈んだらアンドロメダ星雲を撮ろう、と思い立った。赤道儀を引っぱり出すのもめんどうだったので、今夜はデジイチの感度を上げ、三脚固定で撮ることにした。月が沈んだ午前一時、屋上に三脚を立て、カメラをセットし、レンズを天頂付近に向けた。試し撮りをしてみると、思った通り、光害のせいでコントラストが取れない。この団地も都会になったものだ。写真中央でぼんやり光っているのがアンドロメダ星雲(M31)。撮影データは、レンズ50mm、F1.2開放。ASA800、露光6秒。星雲周辺を拡大し、トリミングしてます。
ところで、昨日の「怪しいよ」事件のせいで、近所の人たちが、どう思っているのか気になりだした。深夜、屋上で明りもつけずに、カメラで何かを撮っている男。もしかすると怪しまれているのでは。
東の空には、早くも冬の星座が顔を出してました。
銀杏
2時半ごろ、ビニール袋を二つ提げて、船乗りのオッチャンがやってきた。オッチャンは店の常連さんなのだけど、若いころ貨物船で世界中をまわっていたというので、ぼくは「船乗りのオッチャン」と呼んでいる。ビニールの中身は、ひとつが中華料理店をやっている中国人の友だちからもらった手作りキムチで、もうひとつは、鹿児島アリーナで拾い集めてきたというギンナンだった。ぼくはこの手作りキムチが大好きなので、時々分けてもらっている。オッチャンがカウンターの前に立つと、それまで店を満たしていた上品なコーヒーの匂いは瞬時に吹き飛び、キムチとギンナンの猛烈なガス臭が店に充満した。さいわい店にいたのは金曜日の豆腐屋だけだった。
話は変わるが、店の駐車場の彼岸花が、もうすぐ満開だ。