今日から7月。
夏が始まったという実感が湧いてくる。
「ひまわり、夕立、蝉の声」
これは吉田拓郎の「夏休み」という曲の一節だ。
ここ鹿児島では六月灯という夜祭が始まる。
今年はどんな夏になるだろう。
吸血鬼の夜
酒が切れた。
ぼくは寝る前に酒を飲む。
ここのところ、お気に入りはカンパリである。
まず色がいい。
動脈血を薄めたようなきれいな赤。はるか昔、ぼくが吸血鬼だったころを思い出す。
わけがないが、この輝ける赤は、その昔、夜が危険であったころの記憶を呼び覚ます。
夜はいざなう。吸血鬼は処女の生き血を吸う。
思い当たる方は、夜、出歩かないように。
無駄な時間
風呂に入る前に酒を飲む。たいてい安い酒だ。ちなみにウォッカ。
風呂は毎日入るが、めんどくさい。時間の無駄に思える。
そこでぼくは工夫した。風呂に入る前に酒を飲むのである。
これはいい。
頭が程よくフラフラして気分がいい。
無駄に思えてた時間が案外捨てたもんじゃないと思えてくる。
しかし欠点もある。気がついたら何度も頭を洗っていたりする。
新たな無駄の創造といえなくもない。
暑い一日
どうやら外は相当暑いようだ。34度くらいあると思う。
こんな暑い日、お客様は頭にターバンを巻き、ラクダに乗ってやってくる。
そういうお客様がいらしてもぼくは驚かないような気がする。
アラブあたりでは普通の光景だ。
また、こういうのもおもしろい。
遠くから地響きが次第に近づいてくる。
やがてそれは店の前で止まる。
2階の窓からインド人が顔を出し、コーヒーをくださいという。
彼は象に乗ってやってきたのだ。
食物連鎖
夜。時計は10時を回っている。ぼくは寝室の机で仕事をしていた。
音のない夜。サイレントナイト。
と、家のどこかでドタンバタンと大きな音がして娘の叫び声。
ふん、きっと、クモでも出たのだろう。
ぼくは聞こえなかったことにして仕事を続けた。
風呂から上がった妻が娘の部屋に直行した。風呂の中まで聞こえたらしい。
やがて妻と娘がそろって寝室に入ってきたが、それらしいことは何も言わない。
妻は娘に口止めされたようだ。
娘の部屋は思い切り散らかっている。
紙くずといっしょにジャンクフードなども混じっている。
ぼくは何度も言う。
「部屋が汚いとダニが湧き、ダニを食べる小さな虫が寄ってくる。そして大きなクモがやってきて、その虫を食うんだ。アンダースターン?」
そして、ぼくが言った通りになる。
負けず嫌いの娘は、ぼくが言った通りになるのが何よりも悔しい。
だからぼくにはクモが出たなどとは絶対に言わない。また、こんな風にも言う。
「クモなんか怖くない」
「明日、部屋の掃除をすると言ってたよ」と妻が言った。
放っておくと消えていく
お店に籠って仕事をするようになって5年が経つ。
明らかに運動不足で、太ももなどは、見てはっきりわかるくらい細くなった。
筋肉の減少は目で見てわかるので、対策を打とうという気が起きる。
問題は、目に見えない部分の衰弱。
例えば脳。筋肉同様、使わないでいると小さくなるのか。
そういえば最近、頭を左右に振るとコトコト音がする。
ような気がする。
バベルの塔
窓の外も暗くなってきた。まもなく閉店時間。
ぼくはカウンターのカップルと話している。
丸テーブルでコーヒーを飲んでいる若いカップルのおしゃべりが時々聞こえてくる。
二人の使う言語は日本語ではなく英語でもない。
時々起こる笑い声。
二人はスペイン語で話している。
さっぱりわからない。
ハイライト
今日は父の日だった。
無条件に何かもらえる日というのは、ただ、うれしい。
ぼくが小さかった頃、父に何をあげていただろう。
今は吸わないが、そのころ父はタバコを吸っていた。
ハイライトをプレゼントした記憶がある。
ぼくはタバコを吸わないので分からないが、今でもあるのだろうか、ハイライト。
おしゃべりな午後
きょうは土曜日。
Aさんをはじめ、ユニークなお客様が集合してしまった。
各々、好き勝手なことをしゃべるので、混乱するかと思うとそうならない。
不思議と疎通がはかられてて、初めてのお客様でも孤立することがない。
歯に衣着せぬ乱暴な物言いに見えるが、だれも傷つかないように見える。
子供同士の会話に似せた大人の会話だ。
疲れたが、楽しい午後だった。
ホテル カリフォルニア
梅雨に入っているのだけど、外は明るい。今日は天気がいいようだ。
お店のガラス窓はとても広いのだけど、開けることができない。
一日中、お店に籠もって、珈琲を淹れたり本を読んだり。
もちろん、お客様の相手もする。
無性に青空が恋しくなって、用もないのに外へ出る。
ここは自由なようで自由じゃない。
ホテル カリフォルニアへようこそ。

