朝起きると、ふかふかの雪が積もっていた。木立は綿飴みたいだった。わが家は高台にある。いつものように家を出ると激しい渋滞に巻き込まれるのは必至なので、11時ごろ、のんびりと家を出た。ぼくの職場にはタイムカードはない。団地内はまだ雪が残っていて、スピードを出すと車は簡単にスラロームした。店に行くのに二つの団地を抜ける。二つ目の団地が渋滞してた。バスを待ってる女子高生が、雪の積もった壁にヘタクソな絵を書いていた。
「ごめんね」
午後6時半。
時折、窓ガラスに吹き付けられたアラレがパラパラと音を立てる。今夜は吹雪になるかもしれない。こんな荒れ模様では、お客様も来ないだろう、と、思っていたところに常連のIさんがいらっしゃった。
「今夜は積もるでしょうね」と、ぼくは切り出した。
もし雪が積もったら、明朝、車での出勤はよほど気をつけなければならない。Iさんは今年の元旦、凍った路面でスリップ事故を起したそうだ。Iさんは山登りが好きで、林道を走ることも多く、いつも4輪駆動車に乗っている。
その日、Iさんは奥様を助手席に乗せて山道を走っていた。道は凍っていた。坂を上り切り、下りになった時にハンドルが効かなくなった。コントロール不能に陥った車は斜面に乗り上げて横転。上下逆さまになって止まった。Iさんはかすり傷ですんだが、奥様は頭を切り、救急車で運ばれた。本人は覚えていないそうだが、奥様の話によれば、車がコントロールを失って横転する直前、Iさんは奥様に言ったという。「ごめんね」と。
なお、車は廃車になったが、車両保険に入っていたおかげで前より上等の車が買えたそうだ。
A LONG VACATION
毎年のことだけど、冬が来ると憂うつになる。
理由ははっきりしない。
ぼくはニンジンが嫌いだ、というのに似ている。
ちなみにぼくはニンジンがとても嫌いだ。
ぼくは不思議だった。
今年は、いい調子で冬を迎えられそうに感じていたからだ。
しかし、ここにきて様子が変わってきた。やはり冬は嫌いだ。
きょうは特にそう感じた。
大滝詠一の「A LONG VACATION」を一日中リピートしていた。
早く夏が来ないかな。
おいしいミカン
外は寒い。
ならば家の中が暖かいかというと、そうでもない。灯油をケチって、あまりストーブを焚かない。今日は休みだから、家でじっとしていても、だれからも文句は出ない。しかし寒い。寒いと温泉に行きたくなるのが人情である。かもしれない。
またか、と思われても気にしない。指宿の野の香温泉にでかけた。(またか)
今日は雅の湯という、ヒノキ風呂を選んでみた。ぼくはいつも思う。この湯船が欲しい。わが家には屋上があるので、そこに置いて、いつまでも湯に浸かっていたいな、と思う。ちなみに、ここ野の香温泉は1時間1500円。3時までなら1300円。500円で30分追加できる。長いこと湯に浸かってたら、のぼせてしまった。土曜の夜に飲みすぎたワインも影響しているようだ。今日は以前グリーンピアがあったところを経由して、池田湖に出た。ここに氷が張ったらアイススケートができるのに、と思ったが、こういうことは最近人に言わないようにしている。腹が減ったので頴娃町の龍太郎寿司に行ったら準備中だった。枕崎のうどん屋にもふられた。しかたなく、津貫でミカンを買って帰ることにした。津貫といえば麦の花さんのお寺がある。ちょっと寄ってみることにした。道をキョロキョロしながら走っていると、どこかで見たような女性が歩いてくる。麦の花さんだった。きょうは、そわかちゃんの誕生日なんだそうで、餅を配って回るところだったらしい。やさしい目をしたご主人とも会うことができた。ミカンも山ほどもらった。餅もいただいた。へんな形のカボチャもいただいた。(あ、麦の花さん、ミカン、猛烈にうまいです、あっという間に30個くらい食べてしまいました。本当にありがとうございました。あのカボチャはズッキーニと同じように料理してみます。グラン・ブルー、エンゾ風スパゲティー、とか)
今日はいい日だったなぁ。
ちなみに、わが家も娘が誕生日で、ぼくは見よう見まねで「ナシゴレン」を作った。
500円キャビア
何年前だったか、ヨッパライ某が、どこかのスーパーでキャビアを買ってきた。安かったから二つ買ってきた、という。
「いくら?」
「500円」
そんなバカな。瓶を見ると、魚の絵と、何語かわからん字が書いてある。ふたを開けてみると、妙に粒が小さい。しかし、色はちゃんと黒い。食べてみた。変な味だった。きっとタラコに色をつけたものだったのだろう。以来、ヨッパライ某の前でキャビアの話を持ち出すのは厳禁なのだった。今朝、一人でフランスパンを切って食べていると、昨夜遅く修学旅行から帰ってきた息子が言った。
「土産にキャビアを買ってきたよ、安かったから偽物だと思うけど」
さっそくパンにのせて食べることにした。例によってフタの文字は読めない。ふたを開ける。粒の大きさといい、色といい、キャビアにそっくりだ。食べてみる。キャビアっぽい、気がする。うまかったので半分くらい食べてしまった。これはいったい何のタマゴ?
ローストビーフ
今夜は、Oさんのお宅で「ワインとローストビーフとフランスパンと音楽の夕べ」(仮名)なのだった。手作りローストビーフがタラフク食える、うれしいな~、ワインがガボガボ飲める、うれしいな~、うれしいなったら、うれしいな~♪
店を閉める間際、Aさんと、そのお友達のDさんが豆を買いにいらした。なんとDさんがフランスパンを作ってきてくださった。素晴らしいタイミング!なんていい人なんだろう。店を7時半頃閉め、F少年の四駆でOさんのお宅がある某高台へ向かった。坂を上っていくと、雨が雪に変わった。「ワインとローストビーフとフランスパンと音楽の夕べ」(仮名)に似つかわしい、ステキなムードになってきたのだった。乾杯後、さっそく奥様手作りのローストビーフをいただいた。ホースラディッシュとかいう下ろし大根みたいなのを擦り付けて食べた。ウマイ!ぼくの脳裏には小雪の舞うロンドンの街が浮かんだ。ロンドンには行ったことないけど。続いてDさんからいただいた手作りフランスパンを口に入れた。ウマイ!ぼくの脳裏にはセーヌ川沿いのナントカというキャフェが浮かんだ、ような気がした。ちなみにフランスにも行ったことはない。Oさんが用意されてたJOHANのフランスパンもうまかった。これはパリ全体が浮かんだ。皮がぱりぱりしてたからだろう。ワインもうまかった。ぼくが持参したボジョレなんとかヌーボーも好評だったが、これは意外だった。F少年は酒が飲めないので、ワインの代わりにゼンザイがあてがわれた。
携帯で撮った写真なので色がイマイチですが、本物は鮮やかでした。
西田橋
ベルトの穴
ベルトがゆるくなり、少し切り詰めた。
ふつう、革ベルトには3つ、ないし5つの穴があって、ある程度長さを調整できるようになっている。しかし、真中の穴以外使ってはいけない。他の穴はマティニのさくらんぼ同様、飾りなのだ。
と、ぼくは信じているが、その真偽は定かでない。ぼくは学生の頃からそうしているのだけど。
08:30
今朝、やっと床屋に行った。定休日が同じなので、なかなか行くことができない。開店5分前に到着。閉まっていた。わざとドアの前でウロウロしてたら強面のオヤジが顔を出し、にやっと笑った。真ん中の椅子を勧められたのでそこに座った。
「そうそう、あんたに聞きたいことがあったんだが…なんだったかな」
難しい質問だった。
「なんでしょうね」
「なんだったか…思いだせんなぁ」
ぼくに思い出して欲しい様子だった。しかしぼくは朝からそういう無駄な努力はしないことにしている。相手がきれいな女性なら話は別だ。
40分後、ぼくは3000円払い、車を飛ばして店に向かった。
ワルサーP38
S氏は「寒いですね」と言って、カウンターに座った。
彼は薬の切れた中毒患者のように、ピントの合わない、よどんだ目でカップを見定め、ぎこちなく口に運んだ。今は風采の上がらない彼も、その肩にテレビカメラが載ったとたん、別の生物のように機敏に動く。それは洗練された美しい芸を見ているようだ。人間と道具が一体化して目的を果たす。
ジョン・レノンは、ギターを。
ルパン三世は、ワルサーP38を。
ぼくは・・・ヤカン?
悲しい