夜、冷蔵庫を買いに行く

どこか遠くでオーケストラが演奏している。ヴァイオリンソロがそれを引き継ぎ、特色のある旋律を奏で始めた。パガニーニのヴァイオリン協奏曲1番。それにしてもどうしてこんなに暗いのだろう。ぼくは目を開いた。ヴァイオリンを鳴らしていたのは壁際の目覚ましラジオだった。ベッドから起き上がり、よろめきつつズボンをはいていると、よく知っている気がする女性が現れ、抑揚のない声で「れいぞうこがこわれた」と言った。なんだって? よく解らない。でも何か深刻な問題が発生したらしい。ブートストラップ中の思考能力はミミズにも劣る。つまり、ぼくは朝がヨワイ。顔を洗い、屋上に出て朝の空気を吸ってノーミソのギヤをローに入れ、階段を降りた。ただの箱になった冷蔵庫は心なしか悲しげだった。冷凍室に常備してあるアイスモナカを取り出し、ガブリと噛みつく。が、薄茶色の躯体は力なくひしゃげ、液化した中身がドロリと抜け落ちた。この冷蔵庫、何年使ったのだろう。”冷蔵庫”でブログを検索したところ、2005年5月18日に新しい冷蔵庫を買った、とある。約13年間、昼夜休みなく働き続けたのだ。お疲れさん。というわけで、仕事が終わった後、電気店に行って新しい冷蔵庫を物色。店員を呼んで、コレ、というと、すみません、水害のせいで、どれも納期が遅くなってまして・・・これは一ヶ月待ちになります。なんちー! 冷蔵庫のない生活を一ヶ月? そんなの想像力豊かなぼくにも想像できない。というわけで、すぐに配達できる冷蔵庫の中から再度選ぶことになった。結局、予算の二倍の冷蔵庫を買うことになってしまった。