ふと思い立って、むかしの日記を読んでみた。あれまぁ、むかしのぼくって、やさしいな。できたら友達になりたいくらい。こまったな、今のぼくがやさしくない、ってことが、これで分かったわけだ。やれやれ、何とかしなくては。今年ももう終わるし、来年から努力してみよう。
ジンジャラスな一日
地下道その2
昨夜から一階の納戸付近で卵が腐ったような異臭が漂いはじめた。おそらく地下空洞で何かあったのだろう。空洞に通じる扉に隙間ができて地下の空気が漏れ出した可能性が高い。扉を交換するにはまだ早いと思うのだが。前回交換したのが2006年の10月だから、あれから4年経ったことになる。早いものだ。その前に降りた時は扉の向こう側に骨と皮になった動物の死骸が無数に折り重なっていた。一見、犬に見えるが猿のようでもある。まったく得体の知れない不気味な代物だった。万が一そいつらが扉を開けて家に入り込んできたら。想像しただけでも鳥肌が立つ。ことは緊急を要しているのかもしれない。扉の様子を見てこなければ。ぼくは納戸の奥の羽目板を外し、地下空洞に通じる石積みの階段に足を踏み入れた。
さびしい月夜
afterdark
ジンジャラー三日目
寒かった一日
寒い一日だった。低く垂れ込めた雲から冷たい雨が落ちてくる。ムーミン谷から吹き出した氷点下の冷気がこの街を襲ったのだ。ああ、気分はアイルランド。こんな夜は鍋に限る。もうもうと湯気が立ち昇る鍋のなかを箸でぐりぐりまさぐると、うおーっ!こ、これはドブネズミのシッポ!という話はあの某スポコン劇画で一躍有名になった闇鍋の世界。といった話は別の機会に譲るとして、ぼくは時々不思議に思うのだが、一般に日本女性は大根を煮たのが大好きだ。然るに女性が仕切った鍋では大根が不必要に幅を利かせていたりする。早い話、ぼくは大根を煮たのは嫌いではないが、特に好きでもないという話なのだ。もしかすると既に経験のある不幸な方もいらっしゃるかもしれないが、熱い大根は危険でもある。煮た大根はそのむかし犬の歯を抜き取るのに利用されていたのをご存知だろうか。以下、伊丹十三著「女たちよ!」より抜粋。
犬の歯を抜き取る法である。これはごく簡単なものだ。すなわち、大根を厚切りにして、だし汁の中でぐらぐらと煮る。芯まで熱くなったらこの大根を犬に食わせればよい。犬がぱくりと大根をくわえる、と、熱のために歯がすっかり抜けて大根の中に残る、というのだ。
当然ながらこれは人間にも応用が利く。もしあなたが歯を抜く必要があるときは、煮えたぎった厚切りの大根をぱくりと噛めばよい。しかし、歯を抜く必要のない方は、くれぐれも熱い大根を噛まないよう、気をつけなければならない。なお、これを読んで歯を抜こうと試み、火傷を負ってもぼくは知らない。
こんな夜
急に寒くなってきた。そう、こんな夜は気をつけなくてはいけない。あれは2年前、今日のように寒い日だった。その夜、音もなくやってきた北の魔女は、ぼくに激しい一撃を食らわせ、何事もなかったように消え去った。その日から数週間、ぼくはチャンピオンベルトが離せなくなってしまった。気をつけよう、こんな夜は。
ラーメンを食べに行った
ラーメンはめったに食べないが、ひと月ほど前から、なぜかラーメンが食べたくなった。そういうわけで、今回、車は北西に進路をとったのである。途中、道路の左前方23度付近に黄色く輝く背の高い物体を発見、車は急遽進路を変更し、その物体に近づいていった。するとそこは何とかという神社であって、黄色い物体はイチョウの木であった。神社の名前は忘れた。
車は北西に走り続け、山を下った交差点を右に曲がった。しばらく走って左に折れるとそこはなぜか今をときめく、あの中国なのだった。ラーメンといえばやはり中国なのである。ラーメンを食べる前に中国気分になることは重要だろう。
気分が中国になったところで目的のラーメン屋に向かった。そこのラーメンにはなぜかマグロの刺身が載っている。そして、わさびを入れるとうまいですよ、というのだった。
目的を達成したので帰路に就いた。ヨッパライ某が野菜を買いたい、というので、某海沿いホーライ館に行った。車を降りると、やけに海が輝いて、ぼくを呼んでいるような気がした。しかも、よく見ると防波堤の端に変な鳥が止まっている。
鳥を見ると石を投げたくなるのは人間の性だろう。しかし、ぼくはそんなことはしない。動物を愛する人間なのだ。
早く夏が来ないかな。