夜の散歩

7時過ぎ。外は真っ暗だ。仕事を終え、店の戸締りをして散歩に出かける。散歩先は父が入院している病院。病院は人気もなく森閑としている。特有の匂いもない。ちょっと不思議な感じのする病院だ。エレベーターを降り、迷路を通って病室に入る。父は寝ている。そっと近づくと、気配を感じて目を開ける。特に話すこともないが、今日は午前中、看護師から電話があったので、そのことを話してみた。転んだんだって? ああ、トイレの前で転んだ。と言って、頭のどこかをさすって見せた。どうもなってないように見えた。そして、女性の看護師が良くしてくれた、と言った。入院してるせいか、最近、笑顔がないので、笑うようなことはあるか、と聞くと、黙っていた。笑わないと体は良くならないよ、植木等みたいにね、とぼくは言った。父はむかし、植木等のマネをしてよく言っていた。わかっちゃいるけどやめられない。父は、わかっちゃいるけどやめられない何かで病気になったのだ。