ぼくのあの傘、どこへいったんでしょうね

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空は今日も泣いていた。ぼくはポケットに1000円つっこみ、車のキーをひねった。車は曲がりくねった坂を登り続け、やがて雲の中のドライブインに着いた。ぼくは傘を差して吊橋に向かった。
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橋の下の谷にはアジサイが群生している。吊橋の中ほどから見下ろすと、アジサイはちょうど満開のようであった。傘を肩に載せて写真を撮っていると、俄かに風が吹き渡って、ぼくの傘を舞い上げた。傘はくるくる回りながら飛んでいって、谷の斜面に引っかかった。先日買ったばかりのビニール傘。
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ぼくはだれもいないのを確かめ、土手を下って傘を取りに行った。もちろん、道などない。するとどこからか男の声がした。
「命と傘と、どちらが大事か!」
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見ると、おそらく観光で来たと思われる恰幅のよい初老の紳士がこちらを見おろしている。ぼくにしてみれば、これくらいのことは茶飯事なので、ずいぶん大げさな、と思ったが、なんとなくうれしくて、
「ええ、十分に気をつけますから」と手を振った。
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彼はこちらを見つめたまま「気をつけるんだよ」と言い、
「これはあれだな、麦藁帽子の」と笑った。
「ええ、西条八十のあれですね」とぼくは応じた。
無事、ビニール傘を取り戻し、ぼくは帰路に就いた。
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途中、家の近くの某運動公園に寄ってみたら、某博覧会の後片付けをやっていた。
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“ぼくのあの傘、どこへいったんでしょうね” への3件の返信

  1. 角川映画のあれですか?
    といっても、僕はテレビドラマでしか見てませんけど。

  2. ☆chikako~♪さん、ずいぶんすごい人を思い出されましたね。ぼくは戦争映画とか怖くて見ることができません。キャパのちょっとピンボケは読みましたが、あの淡々とした筆致にはただ驚くばかりでした。カメラマンもいろいろですね~
    ☆ゴクニフさん、そうそう、アレです。かあさん、ぼくのあの帽子、どこに行ったんでしょうね。ママー、ドゥーユーリメンバー、ってやつ。西条八十の、ぼくの帽子という詩です。大切なものはしっかりつかんでおかないと、風が吹いたらあっという間に飛んで行っちゃうよ、って。でも、大切なものって、案外分からないものですよね、失ってみて分かることが多い。あ、なんだか暗くなっちゃった(笑)

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