73

父が入院した。スーパーをうろついてたら、ふらふらしたので病院に行って診てもらったところ、血糖値が高く、すぐに入院しろといわれたそうだ。ぜんぜん、マッタク心配していない薄情な息子ではあったが、仕事が終わると店を閉め、とりあえず見舞いに行った。病院は大の苦手だが、夜の病院はそうでもなかった。暗く長い廊下を歩く。だれともすれ違わない。病室の番号を聞くのを忘れてたので、各病室にかかっている名札を見ながら、一階から順に部屋を回り、階段を上がった。三階で若い看護婦と鉢合わせになったので、聞いてみた。
「ワタシもちょうどそこに行くところだったので、いっしょに行きましょう」
白いマスクの似合う、20代前半のカワイイ看護婦だった。父の部屋は個室だった。テレビも冷蔵庫もなく、ヒマそうに寝転がっていた。
「老人のフリをするのはやめてくれよな」
イスに座り、うんざりした顔でぼくがそういうと、父はニヤニヤしていた。ずいぶん長いこと付き合っているが、父の正体はいまだにつかめない。ナニを考えてるのか分からない。人の得意技をばらすのは良くないかもしれないが、父は、バカのフリをして相手を油断させ、隙を窺うという姑息なワザが得意である。最近は作戦を変更し、必要に応じてボケ老人を演じているようだ。
まともに相手をしているとえらい目にあう。

“73” への2件の返信

  1. だいぶ前に一度お店でお会いしたことがありましたが素敵なお父様だったのを思い出しました。
    早く退院できるといいですね。

  2. ありがとうございます。
    今度病院に行ったとき、そのように伝えておきます。
    「若くてキレイな女性が言ってたよ、素敵だったって」と。

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