まるで魔法をかけられたようにみえる。
「考え方がどんどん狭くなって辛いのです」
初老の科学者は見えないボールを手ですぼめるような仕草をしながら微笑んだ。
トレードマークだった磊落な笑いは消えうせ、なにかに怯えているような目つきでぼくを窺い見る。
交通事故をきっかけに精神を病んでしまったそうだ。
暗い魂の奥からおびただしい数の触手が伸びてきてぼくにまとわりつく。それほどに救いを求めている。
しかしそれはぼくの一言で瞬時に引っ込んでしまう。
雨に濡れながら歩いている人に傘を差してあげられない。
謝るのもおかしな話だが、本当にどうしようもない。