たたみ

夕方、あのAさんがやってきた。
ほかにお客様はだれもいなかった。
ぼくはとても眠かった。
「なにか試飲させて」Aさんは言った。
ぼくはいつものようにコーヒーをたてて、彼の前に置いた。
しかし、猛烈に眠い。
Aさんも一応お客さまだから、ぼくは眠るわけにはいかないのだった。
と、そこでぼくはいいことを思いついた。
「ラジオ体操してもいい?」
「いいよ」
ぼくは携帯に入ってるラジオ体操第一を呼び出し、それにあわせて体操を始めた。
「うまいね」Aさんはコーヒーをすすりながら言った。
ラジオ体操はサラリーマンだった頃、朝礼とともに日課だったのである。
体操が終わると、今度はAさんが「もっと効果的なのを教えてあげる」
といって、ヨガを始めた。
床に座って足を組み、両手を合わせて目を瞑ると独特の呼吸を始めた。
なんか、おもしろそうである。
しかし、ズボンが汚れるのが難点だな、とぼくは思った。
そこでぼくはタタミを一枚買い、普段は壁に立てかけておいて、ヒマなときにAさんのポーズで瞑想してみようかと考えたのだった。