体力の衰えを知りそうになった夜

夜、今まで使っていたテレビを弟の住居まで運んだ。
テレビは36型で重さ約80キロ。弟の部屋はビルの3階。エレベーターはない。二人で抱えてよろよろ階段を上り始めたものの、数段上らぬうちに「無理だ」と思い知った。しかし、兄としてのメンツがあるので平静を装い、一段一段必死に上り続けた。弟は下から押し上げ、ぼくが上で引っ張る。下のほうがきついと思って上を選んだのが間違いだった。「そろそろ代わろう」といって、ぼくは下に回った。ふと弟を見ると、まるで仁王像のように目をひんむき、鼻をおっぴろげてあえいでいる。なんだ、オレよりずっと苦しそうじゃないか、若いくせに。ぼくはうれしかった。