レモンイエロー

誕生日の夜、ワインを飲みながらヨッパライ某が言った。
何か欲しいものはないの? 欲しいものがあったら買っていいよ。
ぼくはしばし思いをめぐらせ、そして言った。
ない
ふーん、歳をとったね、と、ヨッパライ某は言った。
いや、今はカタチのないものが欲しいんだ、とぼくは言った。

20代の頃からずっと欲しいものはあった。そしていつか手に入れるつもりでいた。それはレモンイエローのポルシェ。20代の頃、知人が貸してくれた松任谷由実のビデオクリップ集に、一瞬、ポルシェが出てくる。それがぼくの脳裏に焼き付いて離れなかった。今日、久しぶりに見てみたら、ポルシェはレモンイエローではなく、白だった。見なきゃよかった。ぼくは大事なものを壊してしまった。

ピース オブ マインド

今日は三ヶ月に一度の歯のメンテナンスの日。ぼくは思う。男にとって髪の毛はとても大事だが歯もかなり大事だ。技工士のお姉さんは歯を一通り検査した後でいつものように言った。歯は何分くらい磨いてますか? 以前、3分、と言ったら笑われたので、2分と言ってみたが、やはり笑われた。

朝起きたらテーブルにピクニック用の弁当が作ってあった。明日は天気がよさそうだから、どこかで花見をしよう、って昨夜ぼくが言ったのだ。弁当はぼくが作るつもりでいたのだけど、ヨッパライ某が朝早く起きて作っていた。ぼくが作ろうと思ってたのに、と言うと、あなたのはおいしくなかったから、と言った。

歯医者を済ませ、海岸通りを南に走った。海に面した山を上り、満開の桜の木の下にイスを並べ、弁当を広げる。フタを開けると、使っている具材は同じなのに、ぼくが作ったのとはまるで別物。時々花びらが落ちてきて弁当に淡いピンクのアクセントをつけてくれる。平和だね、とヨッパライ某がつぶやいた

マヨネーズべっとりの魚肉ハムもちゃんと入っていた

家に帰り着いて屋上で乾杯。風はまだ冷たいけど、feel so good

ぼくがつくった弁当を持って

予報では、晴れ、とのことだったが、空は曇って灰色だった。よくある話だ。

朝、ヨッパライ某を病院に送り、待っている間、近くのコンビニでコーヒーを買ってきて車の中で本を読んだ。正統とは何か、が延々とつづられる「異端の時代」。おもしろい本なのだけど、少々固いので休日に読むと眠くなる。

花見用の弁当はぼくが作った。見た目はかなりまずそうだったが、普段、あまり食べないヨッパライ某がたくさん食べてたので、たぶん、おいしかったのだろう。なお、ぼくが作る弁当には必ずマヨネーズべっとりの魚肉ハムが入っている。

帰りにいつもの公園に寄ってみた。八分咲きといったところ

山桜は散っていた

昨日の困難な作業で普段使わない筋肉を使ったせいか夜中に何度も足がつって眠れなかった。朝、ヨッパライ某を病院に送った後、駐車場でいつのまにか寝てしまった

一週間分の買い物を済ませ、どこかで昼食をとることにしたが、眠かったのであまり遠くには行きたくなかった。というわけで車で半時間ほどのところにある峠のソバ屋に向かったが、着いてみたら定休日。仕方ないので、その先にある道の駅で焼肉定食を注文。

山の中にある、川の流れる静かな公園をブラブラ。川ではカジカが鳴いていた。

川のたもとに植わっている山桜はとっくに散っていて、なんだか寒々とした気分になった。園内のソメイヨシノは二分咲きといったところ。週末には見ごろを迎えそう

コブシがほぼ満開

恋を忘れた哀れな男に

外は冷たい風が吹いていた。ぼくはヒマを持て余してやってきたようにしか見えないバイク少年と、最近読んだ本の話をしていた。そこに、いかにも悩みを持て余しているといった表情のお客さんがやってきてこう言った。
いま、ある絵描きの個展に行ってきたんだが、そこに展示してあった絵が欲しくなってしまった。どうしよう。買うべきか、買わざるべきか。
これは例えば、ある会合でたまたま出会った女性に一目ぼれをしてしまって、ドライブに誘うかどうか迷うのに似ている。つまりこれは、あなたがとっくに忘れてしまった、いわゆる一つの「恋」

シンクロニシティな午後

3時を少し過ぎたころ、油絵を描いてる某画伯がやってきてカバンから小さな箱を取り出し、カウンターに置いた。
それ、くれるの? と、ぼくは言った。
うん、と、画伯は言った。
数日前、ぼくは某神社に梅を見に行った帰り、食堂裏の売店でボンタンアメを買おうとした。しかし兵六餅は山積みだったが、ボンタンアメは売り切れていて買えなかった。という話をしたら、
おお、シンクロニシティやね!と画伯は言った。