遊んで暮らす

313_1 「Nさんは、もう仕事やめても大丈夫だね」と、いいながら、娘が食堂に入ってきた。
娘は店に置いてあった衆議院総選挙のポスターを見てそう言ったのだった。
広告の仕事をやっているN君が毎月届けてくれる手製カレンダーに、そのポスターは同封してあった。
ポスターの中央に「コンペに勝ちました、○,○○○万円也!」と走り書きしてある。つまり、彼の作った選挙広告が採用され、○,○○○万円の売り上げがあった、ということなのだった。
娘はその売り上げのほとんどが彼の財布に入ると思ったのだろう。やれやれ、うらやましいくらいシンプルな思考回路。それに、仮に○,○○○万円の金が手に入ったとして、果たして残りの人生を遊んで暮らせるものかどうか。
ちなみに、この広告に出てくる人相の悪い人たち(笑)は枕崎のARTSというスカバンドだそうです。

風とともに去りぬ

セミの声がやんだ。
店の駐車場には数本のケヤキが植えてある。
そこがセミのたまり場になってて、つい数日前まで毎朝狂ったように鳴いていたのだが。
今朝気づいた。
静かである。
しんとしている。
思えば少しうるさかったが、案外いいやつだったように思う。

暴風雨

台風14号は薩摩半島の西海上をのんびり北上中である。
2階の窓から見る限り、さほど風雨は強くないようだ。
しかし、ニュースによればデパートや大型ショッピングセンターは軒並み休業とのこと。
というわけで、うちの店も休むことにした。わ~い、うれしいなーっと。
と、いっても、うちの中ではすることがあまり無い。
仕方ないので暇つぶしにこのブログをバージョンアップしてみた。
(中略)
いつの間にか午後になっていた。何もしなくても腹は減る。
しかし食料がない。近くのスーパーも休業なのだった。
ぼくは戸棚や冷蔵庫にあるもので何か作ることにした。
見つかったのはスパゲティーの麺、ホールトマト、ピーマン、シイタケ、ニンニク、たまねぎ、ベーコン… オーケー、これだけあればうまいスパゲティーが作れる。
と、ぼくは冷蔵庫の野菜室にねじけた巨大キュウリを発見。が、よく見るとそれは痩せたヘチマなのだった。そうだ、ズッキーニの代わりにこれを入れよう。
ソースを煮込む際、某女流芸術家からいただいたローリエも数枚入れた。
完成。暖めた皿に湯気の立ち上る麺を盛り付け、ソースをぶっかける。
BGMはJanet SeidelのThe Moon Of Manakoora。
おー!これは絶品であった。
ヘチマのスパゲティー一皿800円也。で十分に売れると確信したのであった。
お、またどうでもいいことを書いてしまった。

定休日

303_1 今日は休み。どこかに行きたい。
しかし、台風のせいで天気が悪い。
お昼ごろ、買い物に出かけていたヨッパライ某からメールが来た。
「スーパーに来ているけど、いるものある?」
ぼくは条件反射的にあるものが浮かんだ。台風といえばコレなのである。
「チキンラーメン」と、思わず書いて送った。
そんなわけで、ぼくの昼ごはんはチキンラーメンにタマゴをのせたワビシイものになってしまった。
夕方、ビデオを借りに出かけたヨッパライ某にメールを送った。
「以下のCDを借りてきてください。マントヴァーニ・オーケストラ「今宵の君は」という曲が入っているアルバム。無ければベストアルバム。パーシーフェイス・オーケストラ「夏の日の恋」という曲が入っているアルバム。無ければベストアルバム。フランク・プゥルセル「ミスター・ロンリー」という曲が入っているアルバム。無ければベストアルバム」
返事は来なかった。
帰ってきてヨッパライ某は言った。「なかったよ」
ヨッパライ某はいつもツタヤの店員にぼくが送ったメールを見せ「これ」といって借りてくる。
今日は間違って、ひとつ前のメールを見せてしまったそうだ。
「チキンラーメン」

台風14号

台風が近づいてきた。
今度の予想コースは鹿児島市にとって、かなりアブナイ。
危険なのは左フック。
コイツを食らうと、風が強く吹く。よって、被害も大きくなる。
明日は休みだ。
台風が来るのはあさって。
このままだと明後日も休むことになるかもしれない。

流星

風が強いのは、わが家が高台のがけっぷちに立っているせいだ。
ぼくはいつものように屋上のテーブルに寝転がって星を見ていた。
逃げるように雲が流れていく。台風が近づいているから。
雲の切れ間から星が見え、思い出したように流星が飛ぶ。
ぼくは訳の分からない口笛を吹いている。
ぼくは酔っている。FourRoses.安いバーボン。

エビスから来た男

今日もI氏は、やってきた。今日は赤いシャツの友人を連れてやってきた。
「彼にココの豆を買わせようと思ってね」と、にやついた。
「今日はお客さんはどうですか?」
「来ないよ、まだだれも来ん」
「ふーん」と、眉根にシワを寄せ小首をかしげる。
心配顔を作ったつもりなんだろうが、どうみてもうれしそうだ。
彼がカウンターにいる間はお客様は少ない。来ない。
しかし、彼が帰ったあと、お客様が次々といらっしゃる。
疫病神なのか福の神なのか。

朝の演歌

午前11時を少し過ぎたころだった。走る魚屋が店の前に止まり、屋根のラッパ型スピーカーが派手に叫びだした。
「それでも~わたしは~あなたに~つい~て~ゆ~う~く~~~♪」
悪いけどぼくは朝からそういう気分にはなれない。
それにしても、どうして走る魚屋さんは演歌をかけるんだろう。
しかも、その歌詞は聞いているほうが恥ずかしくなるような内容。
いや、恥ずかしく感じるのはぼくだけかもしれない。
侠気に富む男に黙ってついていく女。美しい構図だとは思うのだけど。

5年

いよいよ8月も終わる。
店のカレンダーをめくり、9月にした。
あとひと月で、この店を始めて丸5年。
2000年の10月にオープンしたのだった。
9月に友達を呼んで、練習したんだよな。
手伝ってくれた友達の顔を思い出す。
だれしも、「やれやれ、コイツには困ったもんだな」という顔をしていた。
そう、困った友達は持ちたくないものだ。