wink

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闇の中で だれかがwink. そしてささやいた。
金曜の夜だよ。どこかドライブしようよ…
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ぼくが見たものは

昼過ぎ、常連のSさんがやってきた。カウンターにお客様がいらしたので、Sさんは少し離れた丸テーブルの椅子に腰掛けて待っておられた。合わせた膝を少し傾け、背筋を伸ばし、遠い一点を見つめているそのたたずまいが花のように涼しげで、とても美しく感じられた。ほかのお客様が帰られた後でそのことを話すと、にっこり微笑み、「亡くなった母が喜びますわ」とおっしゃった。しつけの厳しいお母様だったらしい。愛に裏打ちされた厳しさ。なかなか難しそうだ。

アパートは無くなっていた

Okada
むかし住んでいたアパートは今もあるだろうか。ふとそんな思いがよぎった。今から20年以上前に住んでいた東京のアパート。そうだ、某Googleのストリートビューで見てみよう。住所を入力すると、すぐさまその場所が表示された。残念ながらアパートはなくなり、かわりに堀車庫のあるクリーム色の住居が建っている。アパートの横には隣のOさんが使用する狭い階段があるのだが、なんと、その階段から降りてくるOさんが写っているではないか。太陽の位置から察するに早朝だ。おそらくゴミを捨てに行くところなのだろう。懐かしいより先に、なんとも奇妙な気分になった。

雨の音を聴く男たち

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朝から雨が降っている。気圧が低いせいか頭がはっきりしない。時の過ぎ行くまま、ぼんやり雨の庭を眺めていると、なんとなく静かなクラシック音楽が聴きたくなってきた。ふと、自作の真空管アンプとTANNOYで室内楽を聴いているという、常連のお客さんの顔が浮かんだ。電話をしてみると運よく在宅されていた。ぼくは北に車を走らせた。小さな丘を二つ越え、川を渡り、坂を上って、場所がわからずに住宅地の路地をぐるぐる回っていると、雨の十字路に見覚えのある初老の紳士が微笑んでいた。車を停め、玄関に案内されると奥からリュートをかき鳴らす音が聞こえてくる。こんな雨の日にふさわしい、どことなく憂いを帯びた演奏。だれが弾いているのだろう、と驚いていると、それは件のTANNOYから流れていたのだった。
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星の涙

1004_10_02
今でもはっきり思い出すことができる。幼稚園に入る前だったから、たぶん三歳くらいなのだろう。ぼくと母は階段に腰掛けていた。母がぼくの手のひらに金平糖をのせ、これはお星さまの涙なんだよ、といった。ぼくはそれを長いあいだ信じていた。
1004_10_01

予感

1004_09_01
枯れ木のようだった庭のケヤキから、みるみる青葉が吹きだした。
毎年のことなのに、なにか新しい始まりが起こる予感。