スリラー

こういう妙な仕事をしていると、たまに雑誌の取材が来る。
そんな時、ぼくは当然のようにカメラマンに注文をつける。
「いいか、カッコよく撮るんだぞ、本気だからな」
「わかりました、まかしてください」カメラマンはニヤリと笑う。
しかし、できあがった雑誌の写真を見て、ぼくはいつもがっかりする。
昨夜、ぼくは妻に向かって、ため息混じりにつぶやいた。
「雑誌のカメラマンときたら、カッコよく写せというのに、神経質でイジワルそうな顔の写真ばかり撮るんだ」
すると妻は言った。
「でも、いつもあんな顔だよ」
昼ごろ、いつもの某仕事男が店に来た。そこでぼくは彼に頼んでみた。
「そろそろ遺影用の写真が欲しいと思ってね。撮ってくれ」
仕事柄、彼の写真の腕はなかなかのものだ。ぼくはにっこり微笑んでポーズをとった。仕事男はアングルを決め、シャッターを切った。しかし、なぜか液晶画面を見ながら首をひねっている。どれどれ。ぼくは画面を覗き込んだ。うっ。ぼくはガクゼンとした。微笑んだはずなのに、怒ったような顔だ。こんなはずじゃない。もう一枚。といって、ぼくは特別用の笑顔を作った。彼はシャッターを切った。が、再生された画面を見て、またもや首をひねっている。悪い予感がした。見ると、さっきより恐い顔で写っている。ぼくはどうしても腑に落ちず、もう一枚撮ってもらった。満面に笑みをたたえて。しかし、結果は更にも増して悪いものとなっていた。いったいこれはどういうことだ。ぼくはゾッとした。こいつはまさにスリラーそのものじゃないか。

8mmの過去


休みだというのに朝から雨。冷たい雨が降る日は、露天風呂に行くのがいい。雨の露天風呂は気持ちがいい。でも、今日は祝日。人が多いところに、わざわざ行く気はない。というわけで、今日は家にこもり、「数年以内に必ずやらなくてはならないリスト」の上位にある項目を一つ片付けることにした。それは、むかし撮った8ミリフィルムの映像をデジタルファイルに変換すること。ハンディビデオカメラが普及する前、ぼくは8ミリカメラで映像を撮っていたのだ。さっそく納戸の奥から8ミリ映写機とフィルムを引っぱり出し、スクリーンに映しだして、その映像をビデオカメラに収めていった。さすがに映像は古く、すでに世を去った人が次々に現れる。おもしろい映像もあった。指宿スカイラインの途中に立派なレストランがあって、そこで食事をしている様子が写っているのだ。もちろん、今はそんなものはない。フィルムの数が多く、変換が終了するのに一日かかったが、そこに登場するのは友人ばかりで、ぼくはほとんど写っていなかった。下のクリップは以前このブログに登場した友人の映像。当時22才。

電話予約

ぼくは珈琲豆を売っている。ぼくはそういう人だ。
店に直接来て、「マンデリン200、タンザニア100、豆で!」
と言って買っていく人がいる。
遠くからインターネットで買う人がいる。
そして電話で予約する人がいて、その中に、ぼくには理解できない人がいる。
それは店の入り口付近から携帯で電話注文をする人だ。
「マンデリン200、タンザニア100、豆で」
と言って、数分後に店に入ってくる。
「きっと、直接ぼくと話をしたくないのだろう」
ぼくはそう理解するしかない。

W

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黄昏が迫る夕暮れどき。
店の窓ガラスが、ビリビリ震えはじめた。
外で、低いエンジン音が響く。
あのバイクが来た。
いや、あのお客さんがいらっしゃった。

18:02の西空

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昨日の晩飯はカレーだった。ぼくは今ダイエット中なので、夕食はお代わりをしない、と決めていたのだが、昨夜はカレーだったので、お代わりをした。家庭において、カレーとは必ずお代わりをするべきものなのである。カレーを一皿分だけ作る人はいない。カレーというのはタマネギやジャガイモ、肉を切り刻み、大きなナベに放り込んで何人分も作る。4人家族なら10皿分くらい一度に作る。それをたった1皿しか食べないというのは間違っている。と、ぼくは思う。ところで今日はこんなことを書くつもりじゃなかったのだ。店の屋上で夕日を眺めていたら、シチューが食べたくなったので、そのことを書こうと思ったのに、書き始めたらカレーになってしまった。

天使と悪魔

昨日、インタビューの専門家から、こんな質問を受けた。
コーヒーの魅力って何ですか?
ぼくは、何も考えずに、こう答えてしまった。口が勝手に動いた。
「非日常性かな」
ぼくにとって、珈琲は不思議な飲み物だ。悪魔的ですらある。さびしい時、ぼくは珈琲を飲む。するともう一人のぼくが現れて、何か言う。酒ではこうならない。酒は自分をぼかしたり際立たせたりするが、ぼくの期待する非日常的なことは起こらない。ぼくは非日常的なことに興味がある。だから、今日から始まった、CERNのLHCプロジェクトの展開をとても楽しみにしている。このCERN、「ダ・ヴィンチ・コード」の作者、ダン・ブラウンの小説「天使と悪魔」の舞台。ダ・ヴィンチ・コードはおもしろく読ませてもらった。が、その前編ともいえる天使と悪魔は、これを読んだお客様の話では、イマイチ腑に落ちない点がある、らしい。(非日常を超え、荒唐無稽の域に達している?)でも、やっぱり、読んでみよ~~っと。CERNのことも知りたいし。

ながしまこ

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いつの間にこうなったのか知らないが、googleを使って検索すると、検索窓の下に、ベローンと、余計なのが出てくるようになった。なんだか、使いにくくてしょうがない。さっき、某珈琲豆屋を検索しようとしたら、ベローンの中に、当該豆屋が出てきて、ちょっとびっくり。その横の 4,100件、とは、いったいなんだろう。

心変わり

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蛾というのは昼間は飛ばないのだと思っていたが、数年前から、黒とダイダイの綺麗な羽を持つ、一見、蝶のような蛾がやたらと飛び回り始めた。イヌマキの葉を食い荒らすキオビエダシャクという蛾である。オレは蝶にはやさしいが、蛾にはキビシイ。蝶が飛んでくると、「やあ、ごきげんよう。いい天気だね」などとオレは微笑んでみせるが、もしそれがキオビエダシャクならば、即座に叩き落とす。かもしれない。夕方、庭に出てみると、小さな蝶が飛んでいた。シジミチョウだ。すかさずオレは、「やあ、」と、心で挨拶しようとした。が、その蝶が庭のソテツにとまった。
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「ん? この構図、どこかで見たような気がするな」
オレはソテツに止まっているシジミチョウを見て、首をひねった。
「もしや」
オレは大急ぎでそのシジミチョウの写真を撮り、パソコンを開いて“ソテツ シジミ”で検索した。すると
「ソテツの害虫が大量発生 珍チョウ、クロマダラソテツシジミ」
という記事が躍り出た。オレの悪い予感はあたってしまった。そのシジミチョウは、カワイイ顔をしていながら、オレの大事なソテツを食い荒らす、害蝶?だったのである。十日前の新聞にその記事が載っていたのをオレは覚えていたのだ。オレはこれからどうすればいいのだろう。シジミチョウへの挨拶は。それとも見つけ次第、即座に叩き落とすべきなのか。
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