松茸の夜

あれは○○年前の今日、11月2日の夜の出来事だった。ぼくは友人たちに誘われて天文館のあるお店にでかけた。そこはテンプラを目の前で揚げて食べさせてくれる店だった。「今夜は俺たちのオゴリだからじゃんじゃん食え」といいながら友人たちはぼくのために高そうなものばかり選び、次々と注文した。ふと見ると、こんがり揚がったマツタケが目の前で湯気を立てている。ぼくはマツタケを食べるとジンマシンが出る。友人たちはそれを知らない。明日はぼくの結婚式なのだった。四国からわざわざ来てくれた友人もいる。ぼくは困った。20代の金のない友人たちが、ぼくに高価なマツタケをおごってくれたのだ。これを食わねば男がすたる。まだ若かったぼくはそう思った。ぼくは思い切ってマツタケを口に入れた。あの時のどを下りていったマツタケのイヤな感触をぼくは忘れない。一時間もしないうちに全身にジンマシンが噴出した。顔は風船のようになった。夜も遅く、病院もしまっている。ぼくは後悔したが、後の祭りだった。明日の結婚式は中止しよう、という話が親戚の間でちらほら出始めた。今思えば、救急車を呼んでもおかしくない状態だった。深夜2時頃だったと思う。ジンマシンは峠を越え、徐々に引いていった。一番心配したのは友人たちだった。かわいそうに。
と、いうわけで、明日は結婚記念日なのです。

島うた

朝、珈琲豆を焼いているところに注文の電話があった。
奄美大島でお店をされているご婦人からだった。
彼女の声は、ゆったりとして、たおやかだ。
彼女と話していると、天気のいい日に、縁側に腰掛けてお茶を飲んでるような気分になる。
数日前、奄美大島に出張されてたKさんから、朝崎郁恵さんという方が歌う島歌のCDをいただいた。
どうしてそうなるのかわからないが、その歌声は耳にではなく、直接頭の中に聞こえてくる。(聞いてみたい人は鷹師店で聞けますよ)
遠い海の向こうから聞こえてきた電話の声。ゆったりとして、たおやかだ。
きっとそれは、島歌がはぐくんだ声にちがいない。

意外に長いオレの

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今日は定休日だったが、家人が風邪をひいているため出かけなかった。
天気が良かったので松元町の川崎緑化園に出向き、草花の苗を買ってきて植え替えた。植え替えたところで記念撮影。
お、オレって、足が長いじゃん。塀に映った影を見てうれしくなった。

おはよう

日曜日の朝は、日曜日に仕事をしているぼくにとっても日曜日の朝だ。
毎朝走っている道路も、今日は日曜日の顔でぼくを迎える。おはよう。素直にそういえる。
信号を曲がり、長い坂を上っていく。フロントガラス越しに広がる空も、日曜日の顔でぼくを見ている。おはよう。日曜日の朝におはよう。

土曜の朝

ぼくの仕事は、もしかすると毎日が日曜日のように見えているかもしれない。
好きな音楽を聴きながら好きなコーヒーを飲み、お客さんと友達のようにしゃべり、ヒマなときは本を読む。
今の仕事に疲れている人の中には、もしかするとうらやましく思われる方がいらっしゃるかもしれない。
毎日が日曜日。
しかし、問題はそこなんです。仕事をしてるような気がしないのです。

うーむ。

ここんところの日記を読み返して思った。なんだか眉間にしわを寄せて難しそうな顔をして書いてるような、どことなく怒ってるような文章だな。と。書いてる本人はオモシロ半分に書いている場合が多いんだけど。こんなこと書くと、まずいけ。

二人称の死

閉店後、家には帰らず直接通夜に出かけた。今朝方、午前3時に祖母はなくなった。98歳。病院ではなく、老人ホームでなくなった。祖母は普段どおり床に入り、いつものように眠りに就いた。冷たくなっている祖母に、見回りの方が気づいたのだ。と、酔いが回った叔父がいった。その語り口が川の流れのように自然だったせいか、ぼくは祖母の死に、サナギが羽化してどこかに飛んで行ったような印象を覚えた。長生きはいいことだろうか。長生きしたばかりにとても辛い目に会うこともある。彼女はここ数年のうちに二人の子供を亡くしていたが、ほかの子らの計らいによって知らされなかった。それがいいことなのかはわからない。養老孟司は自分の死は一人称、親しい家族の死は二人称、他人の死は三人称(この中には夫、妻も含まれていたはず)で、二人称の死だけが本当の死だと思う、といっている。この法でいけば、彼女は長生きし、本当の死を味わうことなく死んだことになる。

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レジのスターをめざせ

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水曜日はヒマなことが多いのだが、きょうはとても忙しかった。寒い日が続いたので、コーヒー豆を切らした方が殺到したのだろう。車にガソリンが必要なように、ぼくらにはコーヒーが欠かせない。そんなわけで、今日はかなり賑わった。しかし、忙しいとき、ぼくはかなりの頻度でヘマをやる。ぼくとレジスターの相性はA型とB型の夫婦以上に悪い。ぼくがレジの前でまごまごしていると意地の悪いお客さんがニヤニヤ見ている。ぼくは聞きたい。あなたはレジを打ったことがありますか?もぅ、大変なんだから。
ストアーに並んでいる最新のレジスタは、商品に付いたバーコードを読む。うちのレジは安物なので、そんな機能はない。お客さんがレジの前に何人も並ぶと、ぼくは頭の中が白くなる。そんなわけで、今日もヘマをやった。閉店後、レジを締めるとかなりの金額が足りない。
やれやれ。

湯豆腐

急に寒くなってきた。
ムーミン谷のカバたちも、そろそろ冬眠の準備に忙しくなる頃だ。
ぼくは冬眠はしないけど、脳が部分的に休止状態になっていく。ような気がする。
具体的には、注意力が散漫になる、ような気がすることがある。
人の脳はコンピューターではないので、電気さえあれば動くというわけにはいかない。
寒かったり、愛がなかったりするとフリーズしやすくなる。
人恋しい秋の夜。家族に囲まれていても、一人の者もいる。
ま、そんな面倒なことなど考えないで、みんなで鍋でも囲みたいね。

休日モード

きょうは定休日。飽きもせず南薩へ車を走らせる。
運転はヨッパライ某に任せ、ぼくはもっぱら外の景色を楽しんでいた。
水色の空を白い羊雲が流れていく。
さっきから後ろで変な音がする。ゴゴゴ。
「なんだろうね」二人は訝りながらも、たいして気にせず走り続けた。
指宿の街に入ったあたりで、右折車線に移ったドライバーが笑いながら言った。
「パンクしてるよ」
ぼくは少しも驚かなかった。とっくにそのことに気づいていたのだ。ぼくは休みには仕事をしないと決めている。
ぼくのオートクルーズ装置は休み気分に水をさす信号は届かない仕様になっている。