コーヒー豆を焼き終え、空になったケースを車に積むために駐車場に降りると、オヤジがヒマそうに水をまいていた。
「コーヒー、飲む?」
と聞くと、飲む、とのことであった。
ふたりでコーヒーを飲みながら、
「ヒマそうやね」と聞くと、
「実をいうと、ヒマでしょうがない、何かすることはないか?」
という。実にぜいたくな話であった。ぼくが、
「明日、坊津に写真を撮りに行くんだ」というと
「趣味があるということは、いいことだ」とシミジミ言った。そして、
「おれの写真を撮ってくれ」という。
遺影にする写真がないのだ、と。いわれてみれば確かに、そういう写真がない。OK、といって、ぼくはカメラを取り出し、駐車場に出た。遺影用となると、ちゃんとした顔じゃないとまずいので、いろいろ注文をつけながら撮った。そのときカメラにはマクロレンズがはまっていたのだが、せっかくだから、と、店に戻り、ポートレート用の中望遠を取り付けて再び撮り始めた。光の回り具合がいまいちだったので、ポストにあった大きなDMを両手で持ってもらい、レフ板代わりにした。なかなか良い写真ができたと思う。
“そろそろYeah !!” への2件の返信
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泣ける話です。二人ともたいしたもんだ。
ぼくにとっては、おもしろい写真が撮れるかも、という好奇心が先行していて、写真以外のことはほとんど考えていず、とにかく、かっこいい遺影(笑)を頭に浮かべながら写真を撮っていました。ぼくにとって死は雨が降ることと同じようであって、あまり特別なことのように感じられません。父もそろそろ店じまいの時を迎えるようですが、そういう父に、することがなくなったら店をたたむだけだよ、などといってます。考えてみれば、ひどい息子かも(笑)