地下道

今日は定休日。天気は、そう悪くないが、なぜかドライブという気分にならなかった。先日ひいた風邪の余韻が、まだ体の隅に残っている。じっとしているのも退屈なので、「地下道」の地図作りでもすることにした。「地下道」の入り口はキッチン裏の納戸の奥。大きなダンボール箱をいくつか引きずり出し、奥の壁の合板を横にずらすと、小さなドアが現れる。まるで推理小説の一こまのような仕掛けだ。ドアをくぐり、狭い階段を降りていく。ひどくカビ臭い。3メートルほど下ったところで鉄製の扉に突き当たる。扉を木で作らなかったのは、家を建てた当時、扉の向こうの湿度が異常に高かったからだ。木製だと、たぶん1年もしないうちに腐ってしまっただろう。この扉を開けるのには、ちょっとした心構えが必要だ。というより、できたら酒を軽く一杯引っかけてからの方がいい、と、思う。3年前の夏のことだ。ひどく扉が重く、いくら押してもなかなか開かなかったことがあった。扉が少し開いた時、向こう側を覗き込んだぼくは腰を抜かした。おびただしい数の、干乾びて毛皮と骨だけになった動物の死骸。それが山のように折り重なって異臭を放っている。扉を塞いでいたのはそれだった。いったい、ここでなにがあったのだろう。とにかく、今まで見たことのない異様な光景だった。その夜、ぼくは原因不明の熱を出した。心の準備無しに扉を開けると、ひどい目に会う。
ぼくは持ってきたCDプレーヤーを足もとに置いてスイッチを入れた。山下達郎がパワフルな声で歌い始めた。それでも不安は消えなかった。ぼくはボリュームを上げた。錠をはずし、鉄の棒を引き抜く。彼の歌声に勇気付けられ、扉を押す。小さな悲鳴を上げつつ、扉は開いた。臭いは予想外に少なかった。ほっとした。扉の向こうには一畳ほどの踊場があり、その先から石積みの狭い階段になって、さらに地下へと続いている。蛍光灯が冷たい光を投げていた。石積みの階段やその先に張り巡らされた地下道は、家を立てる際に偶然見つかったもので、いつ頃できたのか、何のために作られたものなのかは不明だ。ネットで調べたが手がかりはなく、全く分からない。石の階段が見つかった時、家を設計した友人が、おもしろがって、このままにしとこうと言いだし、埋めずに残したのだ。ただひとつ、これまでの探検で、ぼくなりに分かった興味深い発見がある。わが家は高台のがけっぷちに建っているのだが、いくつかある地下道のひとつは、そのガケの切り立った面に開口し、その長さ、広さが、小規模ながら航空機のカタパルトを連想させるのだ。

“地下道” への7件の返信

  1. 今回は探検小説風に書こうと思って書き出したらチョーシに乗りすぎて変な風になってしまった。もし、最後まで読んでしまった人がいたらゴメンネ。

  2. 「もし」どころか・・・、
    大抵の人は読み出したら最後まで読むと思われ。
    んでも、大丈夫。
    ことスプーンさんのエントリーに関しては、
    塗布しすぎて滴り落ちるくらいのツバを
    “柳眉に”つけてから読み始めてますから(笑)
    リアルなコメントが返ってこないとこみると、
    み~んなそうなんでしょう (´∀`*)
    それにしても、スプーンさんの「ゴメンネ」は
    いつも羽毛のように軽いですね ( ̄- ̄)

  3. totto*さん、いつもごめんね。ぼくに悪気はないんだけど。
    そう、最後まで読んじゃったのね。かわいそうに。
    頭が痛くならなかった?
    さっき、ぼくも読んだけど、リズムが悪くて読めなかった。
    あまりにひどいので、さっき推敲したよ。
    よかったら、もう一度読んでね。ゴメンネ。

  4. おはようございます。読ませてもらいました!
    一篇の小説を読む思いですね。
    推敲されたとのことで、なるほどスッキリとリズム良くまとまってる♪
    推敲することでこんなに変わるんだなぁ~と興味深いです。
    スマートになった分フィクション性も色濃くなったのようなので、
    誰かを騙したい時は推敲前の文の方が効果的かもょ(笑)

  5. totto*さん、忙しい中、読んでくださってありがとう。
    おっしゃるとおり、ぎこちなさが減った分、ウソっぽさが増しましたね。
    訥弁は能弁に勝る、などといいますが、ぎこちなく語ることでホントっぽく見せるテクニックもありそう。
    もちろん、そんなことしたら日記ではなくなりますが(笑)
    これを書いてて、ストーリーの先がどんどん沸いてくるのには、ちょっとビックリしました。
    地下に降り着いた時点で、驚くべき展開があるのですが、それはパソコンの中にしまっておきます。
    このストーリには、totto*さんをはじめ、ちょっとクセのある店のお客さんが次々と登場する予定です(笑)

  6. スプーンさん、こんばんは。
    私も拝読させて頂きました。
    読んでいく内に風景が頭の中に浮かんで、手に取るように
    わかりやすかったです。
    まるで、子供の頃の秘密基地に入っていくようなドキドキ感。
    う~ん、長い事 冒険するような行動を取ってません。
    機会がありましたら 続編を期待してます。

  7. 長文、読んでくださって、ありがとうございます。
    会話をはさみながら書くと楽なんですが、そうするとますます長くなりそうだったので止めました(笑)
    秘密基地は、憶えているだけでも5つは作ってます。そのうちひとつは、数年前に事故のあった防空壕のすぐそばの防空壕でした。冒険は、大きな危険と隣り合わせなんですよね。でも、やめられないんだな、これが。ヒヒヒ。

コメントは受け付けていません。