寺田寅彦の随筆に、カメラをさげて、というのがあって、こんな出だしで始まる。「このごろ時々写真機をさげて新東京風景断片の採集に出かける。技術の未熟なために失敗ばかり多くて獲物ははなはだ少ない。しかし写真をとろうという気で町を歩いていると、今までは少しも気のつかずにいたいろいろの現象や事実が急に目に立って見えて来る。つまり写真機を持って歩くのは、生来持ち合わせている二つの目のほかに、もう一つ別な新しい目を持って歩くということになるのである。」
昨日、駅ビルで昼食を食べた後、近くの古い商店街をぶらぶら歩いた。その時カメラは持っていなかったが、いつもの癖で、カメラを通した風景を同時に見ていた。昭和風情の古い喫茶店に入り、熱いコーヒーを注文した。暖房が効いてて心地よかった。なかなかいい音でジャズが流れていた。ぼくはコーヒーを一口飲んだ後、仮想のカメラを使って何枚も写真を撮った