彼はしばらく僕を見つめていたが、やがて決心したのかテーブルに向き直るとグラスにワインを注ぎはじめた。グラスは4個。そのうちのひとつはほかのグラスに比べ飾り気がなく、かえって僕の目を引いた。彼は慣れた手つきで次々にグラスを満たしていった。そして4つ目のグラス、例の質素なグラスにワインを注ごうとして手元が狂い、グラスの横にこぼしてしまった。彼の手は震えていた。彼は気を取り直し、再び注ごうとしたが、赤い液体はグラスを避けて落ち、テーブルに広がった。彼はテーブルを離れ、背を伸ばし、息を整えるともう一度グラスに寄って瓶を傾けた。結果は同じだった。グラスを満たすことはおろか、濡らすこともできなかった。彼は泣いていた