チャンピオンベルト再び その4

一昨日の夜、いつもの作業を終えたぼくは腰のチャンピオンベルトを外し、外の空気を吸おうと雷鳴のとどろくベランダに出た。ドアの横には水道の蛇口があり、その下にレンガと杉板で作ったネコの水飲み台がある。ふと見ると、皿を載せた台の下から濡れた毛皮がはみ出ている。やれやれ、またか。ぼくは台の下にちぢこまっていたネコを引きずり出し、それを拾い上げて木の樽でできた彼の家に抱えて行った。問題が起きたのはその後だった。椅子に座ろうとしたとき、思いがけず右ひざに激痛が走った。なんで?ネコをつかみ上げるとき膝をひねったのだろうか。いやそんな覚えはない。結局、原因は分からなかった。その夜は膝が痛くて寝返りを打つこともできなかった。翌朝、店で珈琲を焼いていると古い友人Fが来て不機嫌そうにつぶやいた。足の裏がマヒして冷たくなってね、変だと思って病院に行ったら、椎間板ヘルニアだそうだ。手術はしなくてもいいらしい。それを聞いてぼくは思い当たった。数日前から左足の先がしびれてマヒし、冷たく感じていた。さっそくネットで調べてみると、その症状の中には「足がつる」というのもあった。運転中や夜中に足がつるのには、半年ほど前から悩まされており、これといった原因もつかめず、とりあえず水分不足だろうと見当をつけて、寝る前には多目の水を補給していたのだった。昨夜もコップ5杯の水を飲んで寝た。もし、足がつる原因が椎間板ヘルニアだとすれば対策の打ちようがある。前かがみの姿勢を長く続けたり、何かを拾い上げるような動作が腰の痛みを悪化させることは分かっている。思えば一昨日の夜、ネコをつかみ上げたときに痛めたのは膝ではなく腰だったのだろう。腰から伸びる神経が膝で警告を発したのだ。あのとき、チャンピオンベルトを巻いていたなら問題は起きなかったかもしれない。