もう秋だし、なにか本でも読もう、って気になった。なんでもよかったのだけど、なぜか「今頃、春樹さんは何してるのかな」みたいな気分になってネットで検索したら、一人称単数、って作品がトップに出てきた。おもしろそうだったので電子書籍版をダウンロードして読んだ。なかなかおもしろい。といってもそれはエンターテイメント的なおもしろさとはちょっと違う。ゲーテはショーペンハウアーに「カントを1ページ読むとあたかも明るい部屋に入ったような気がする」と語ったそうだけど、ぼくがこの作品集のいくつかを読んで感じたのが、この「明るい部屋に入った感じ」だった。春樹さんはそんなことを考えて書いたんじゃないんだろうけど、自分が自分と呼んでる、この自分とはいったい何なんだ、みたいなテーマが根底にあって、文章はやさしいけど戦闘モード丸出しっぽい。そしてその矛先は春樹さん自身に向けられている。どうやら春樹さんは自分と戦っているようだ。なお、明るい部屋、とは、それまでは自分がいた部屋が暗いなんて思いもしなかったのに、どこからか光が射して明るくなり、見えなかった何かがうっすら見えてくる、という感じ