ヒーローになれなかった

朝、空港に人を迎えに行った後、山を越え、海の近くの食堂で魚フライを食べた。砂浜をぶらぶら歩きたかったのだけど、風が冷たかったのでやめた。家に帰りついたのは3時過ぎだった。まだ明るかったけどウォーキングに出かけた。遊歩道をしばらく歩いていくと、大きな木に小学生が群がって騒いでいた。見上げると、木の高いところにカバンがぶら下がっている。だれかが放り上げたのが枝に引っかかったらしい。小学生の一人が長い棒を持っていたので、貸してみろ、と、それをひったくり、背伸びをしながら棒の先でカバンを突っつくのだが、もうちょっとのところでうまくいかない。カバンが枝から外れそうになるたびに歓声が上がる。カバンが取れれば、ぼくは文句なくヒーローだ。だが、結局カバンは取れなかった。ぼくは棒を小学生に返し、カバンのぶら下がった木とその周囲にアリのように群がっている小学生たちを後にした