10年以上前の話だ。クリスマス用に買ったモミの木を、クリスマスが終わった後、鉢から出して庭に植えた。高さ50cmほどの小さな苗だった。それが何年か経ってから、急に大きくなりだした。日に日に大きくなっていくモミの木を見てぼくは恐ろしくなった。この勢いで伸びていったら、数年後には家の高さまで伸びるだろう。そして10年も経てば、となりの家はモミの木の影になって日照不足に陥り、近所問題が発生する。困った。ぼくは勢いを増していくモミの木を前に、動物園のシロクマのように行ったりきたりしながら考えた。しかたがない、引っこ抜こう。しかし、それはロマンチストのぼくにはできないことだった。嫌なことは自分でしたくない。牛肉は大好きだけどウシさんはかわいそうだから殺せない、というあの勝手な感覚とそれは似ている。ぼくは庭の手入れに来た業者の方に持って行ってもらうことにした。その翌日、モミの木はなくなっていた。