世界のかたち

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22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。
ご存知、これは村上春樹「スプートニクの恋人」の出だし。
この小説の内容はすっかり忘れてしまったけど、この冒頭の一節だけは、夢でみた赤い夕焼けのように強く印象に残っている。心の中を突然の嵐が襲うことはある。でも、世界の形を変えるほどの嵐を経験する人は、恐らくとても少ない。