ポケットの砂

061113_01今日は日本晴れのはずだった。しかし、窓をあけ、眠い目をこすって見上げた空は、遠い山の向こうまで曇っていた。雲間から覗いた小さな青空が、申し訳なさそうだった。
「ふっ、いいってことよ。人生なんて、そんなもの」
今日は定休日。ぼくはドライブに出かけた。たいてい、はっきりとした目的無しに出かけるのだけど、きょうは、あの、東シナ海に面したレストランの様子が気になって出かけたのだった。前回行ったとき、店のドアは開いたままだったが、店の中はがらんとしてだれもいなかった。昼食をとって、亀ヶ丘の展望所から東シナ海を見下ろした。北から吹く風の中で、ポットの熱いコーヒーを飲んだ。風に吹かれていると、言葉にあらわせない不思議な感動がやってきた。それは大いなる者と深い意思の疎通がなされたような、畏れに似た喜ばしい気持ちだった。自分の卑小さに気づくことの安心とでもいおうか。例のレストランに行ってみると、ドアは、やはりわずかに開いたままだった。だれもいなかった。浜砂に座り、ぼんやりしていた。波の音。波の音。その単調な繰り返しは複雑な模様を織り成す機織。家に帰った夜、ポケットに手を突っこんだ時、思いがけず触れた砂の感触に、海を吹く風の音を聞いた。