ある衝動

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砂に足をとられながら砂丘をのぼり切る。顔を上げると遠く海が広がっている。水平線に赤い太陽が沈んでいく。
「バカヤロー」
ぼさぼさ頭のジーパン男が叫ぶ。
そう、ここは、ナニが何でも叫ばなくてはならない。叫ぶ内容に意味はない。たぶんそれが青春なのだ。という話しはどうでもいい。昨夜1時ごろ、ぼくはベッドに向かった。いつものように寝室の明りを消したその瞬間、ある激しい衝動に駆られた。
「だれだー、だれだー、だれだー」
突然、あの歌が頭に沸き起こり、どうしようもなく歌いたくなった。しかし、ぼくは必死の思いでそれを食い止めたのだ。

name

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言葉にすると、消えてしまうもの。弱くなるもの。
最近、そのことをよく思う。
言葉にすると見えなくなってしまうもの。
簡単なことなのに
今ごろ気づいた。
たとえば名前。
名前をつけると、消えてしまうもの。弱くなるもの。
名前をつけると見えなくなってしまうもの。
だから
ぼくに名前がなかったらいいのに。

アイス曇り

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「曇った空に、ブラックモンブランは似合わないわ」
君は笑顔でそう言ったね。
今でもおぼえてる。あのときの君の横顔を。
ぼくはなにも考えず、ただ笑ってうなずいた。
でも、君はほんとうは笑ってなんかいなかったんだ。
君はそれきり、電話に出なくなった。
あれがさよならの言葉だっただなんて。

空のコマンド

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もう灰色の空には飽きてしまった。
ぼくはポケットからリモコンを取りだし、空に向けてボタンを押した。
 上 上 下 下 左 右 左 右 B A

三分の二

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よく降る雨。知られたくない何かを洗い流そうとするように。
踊り続ける小さな雨。
一楽章が終わり、二楽章も終わる。
そしてワルツ。雨と一緒にぼくも踊る。
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やわらかなもの

吹く風が心地よい。どうやら風邪が治ったようだ。風邪をひいている間は、いろんなものが硬く感じた。空気が硬く、水が硬い。硬い言葉、硬い表情。そんな硬さがイヤだったせいか、ぼくの言葉はクラゲのようになった。風邪をひいているあいだ、ぼくはぼんやりした頭でこう思った。やわらかいのが良いな、と。やわらかなものに、ゆるやかに包まれていたいな、と。開高健によれば、ルイ11世の言葉にこういうのがあるらしい。
飲むのはつめたく
寝るのはやわらかく
垂れるのはあたたかく
立つのはかたく
とにかく、今日は気分がいい。
風邪をひく前と比べ、5歳くらい若返ったような気がする。

熱のある日

今日のぼくはいつもと違っていた。
熱があるせいだとおもった。
めまいがするし、少し、吐き気もする。
それに、指の先が、電気を帯びたようにピリピリする。
これはもしかすると、スプーンが曲がるかもしれない、と思い、椅子に座って、スプーンの首をしばらくこすってみた。
しかし、何も起きなかった。

雨の午後かぜをひいているぼく

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風邪をひいたようだ。手のひらがほてっている。そうして
ぼくの時計は次第にゆっくりまわり始め、どんどん遅れていく。
1秒が1.2秒になって、やがて1.6秒くらいになる。
そういう世界では、人の声も、トンネルを歩いているゾウのオナラのように響く。
ゾウさん、もう少し小さな声で、そしてゆっくりしゃべってくださいよ。と、ぼくはテレパシーで文句を言う。通じないけど。
窓の外は雨
いつもと違ってきこえる、雨の音。
何か、ぼくに話しかけているように聞こえるのだけど。
「わたしのこと、いつになったら思い出してくれるの」
そういって、ぼくを責めている。