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植物は何を考えているのか分からない。何も考えてないのかもしれない。でも、何か考えているように見えることがある。それと同じで、ぼくの体は何を考えているのか分からない。何も考えてないのかもしれない。でも、何か考えているように見えることがある。

川風

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子どもの頃に、川でよく遊んだせいか、川に行くと、からだがざわめく。ぼくは忘れているのに、からだはあの時の風をおぼえていて、あの時のように風を呼ぼうとする。ぼくの意識は、その外にあって、からだと風がいっしょに遊ぶのを、音のない映画をみるように眺めている。

ありがとう

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夕方、駐車場で花の写真を撮っていると、どこかのオジサンが近づいてきて言った。
なんしちょっとな。(何をしているのですか?)
花の写真を撮っているんです。ぼくは言った。
くらかどがな。(暗くて良く撮れないのでは?)
いや、大丈夫ですよ。
そん、はっぱがじゃまやっどがな(花の上の大きな葉が邪魔でしょう)
いや、大丈夫ですよ。と、ぼくは言ったが、
おじさんは、花の上にある枝を持ち上げてくれた。
こいでよかどが。(これで明るくなったでしょう)
はい、ありがとうございます。と言って、ぼくは写真を撮った。
枝を持ち上げる必要はゼンゼンなかったのだけど。

夜中の十二時に

昨夜の十二時のことだけど、ともだちが自動車のトランクに死体をいれて持ってきて、どうしようか、ってぼくに言うわけよ。やれやれ。
あなただったら、どうする?
これ、きのう映画に行ったついでに買ってきた、河合隼雄著「大人の友情」に書いてあったのを、ちょっといじったもの。
「友人」と一口に言っても、いろんな友人がいると思う。では、いわゆる「ほんとうの友人」って、どんな人?
河合隼雄は、あるユング派の学者が、その祖父に「友情」について尋ねた時のエピソードを引用して答えている。祖父いわく「夜中の12時に、自動車のトランクに死体をいれて持ってきて、どうしようかと言ったとき、黙って相談にのってくれる人だ」
これを読んで、ぼくはさっそく、友人が夜中に死体を持ってきた情景を思い浮かべてみた。

天国の門

雨の定休日。久しぶりに映画を見に行った。見たのは、ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン主演の「最高の人生の見つけ方」
おもしろかったです。病院の相部屋で知り合った二人が、余命半年の末期ガンであることを知り、死ぬ前にやっておきたいことをメモしたリストに従って冒険の旅に出る。途中、エジプトのピラミッドの前で、フリーマン演ずるカーターが、ニコルソン演ずる富豪エドワードにこんな話しをする。
人は死んで天国へ行くが、その門で、二つの質問をされる。どちらもイエスなら、門は開かれる。まず、こう訊ねられる。
「人生に喜びを見つけたか?」
ぼくは思わずよろめいた。スクリーンから発せられた質問が、ぼくの脳天を直接ヒットしたのだった。そして二つ目。
「だれかに喜びを与えたか?」
ぼくは何も言えなかった。天国の門は閉じたままだった。

六月のスイッチ

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朝、出勤する前に、庭の植物を見てまわる。紫陽花が咲いている。梅雨入りと同時に、紫陽花の花が咲きはじめた。紫陽花のどこかに仕組まれた「開花」のスイッチが入ったのだろう。その紫陽花の花を見て、ぼくの六月のスイッチはONになった。ぼくは自分のスイッチを入れるのに、けっこう気を遣うほうだ。気をつけないと、今入れてはいけないスイッチがはいってしまう。たとえば、スイカやキュウリ、大きなヒマワリは夏のスイッチを入れる。生物は、いろんなスイッチを順序良く入れたり切ったりしながら季節に対応していく。それは生物の知恵のひとつだ。季節に関係なく勝手にスイッチを入れてしまっては、スイッチが分けられている意味がない。

雪月花時最憶 君

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きのう、お客さんからCDをもらった。一枚買ったら、オマケに付いてきたからあげる、とのことだった。
お昼前、いつものお客さんと、入荷したばかりのインドネシア珈琲を飲んでいるとき、ふとこのCDを思い出したので、かけてみた。どんな曲が入ってるのか、だれが歌ってるのか、さっぱり分からないまま。流れ出したのは、Windham Hillレーベル風の垢抜けた生ギター。ちょっとビックリ。お客さんも、「これ、いいじゃない」という。「いや、安心するのは早いですよ。そのうち、変なヤローめが歌い始めるかもしれないし」と、ぼくは言った。でも、大丈夫だった。これはいい。すごくいい。木漏れ日のベンチで、爽やかな風に吹かれているような、そんなステキなアルバムだ。
アルバムタイトルは「雪月花時最憶君」
こちらで売ってるようです

ビールが飲みたい午後

今日は朝から大変忙しかった。座る時間もなく、一息ついたのが午後3時前。その後も忙しく、6時過ぎになって、やっとゆっくりイスに座ることができた。ビールが飲みたい!死ぬほどビールが飲みたい!と、思った。
ぼくの記憶の中で、一番ビールがうまかったのは、知人の引越しの手伝いで、海の近くの住宅に行った時のこと。引越し作業もすべて終わり、ぼくは屋根に上ってテレビアンテナを設置した。アンテナの向きの調整が終わったとき、知人が下から缶ビールを投げてよこした。遠くで、太陽が海に沈もうとしていた。それを見ながらビールを開け、瓦に座ってビールを飲んだ。これが最高だった。

つまんない人

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虫を追いかけているうちに学者になってしまった、みたいな男が書いた本を読んだ。題もイカシテル。
「チョウはなぜ飛ぶか」
ぼくは一粒で2度おいしいアーモンドグリコをしゃぶりながら読んだ。この人の言うことは、ほんとにおもしろい。好きなことをやってる人の言葉はセクシーで魅力的だ。読み終わって、ふと、今朝いらした、上品で落ち着いた年上の女性との会話を思い出した。
「オトコの人って、かわいそうよね」
彼女は、つぶやくように言った。
「一生懸命勉強して、いい学校に行って、いい会社に入って、退職して、つまんない人になっちゃう」
彼女は窓の外を見ながらしゃべっている。
さっきまで明るかった空が、いつのまにか暗くなっていた。雨になりそうだ。
「そう思いません?」
彼女は振りかえった。
「そういう人もいるでしょうね」
ぼくは言った。
「ええ、多いですよ。私のまわりにはいっぱいいます」
彼女はいつもの明るい顔に戻っていた。
「苦労して、高性能な歯車になる人はいますよね。でもそういう人は、その仕組みから出たら、なんにもできない」
「そう。そういうオトコって、ほんとにつまらないの」

低気圧ボーイ

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「なんだか今日は思い切りテンションが下がっちゃってさ」
カウンターの向こうでAさんは言った。
「こんな天気じゃあね。ぼくだってそうですよ」
ぼくは言った。
「そういえば、オレが来るときって、いつもこんな天気だなぁ」
「そうですか?」
「うん、こんな雨の日ばかり」
Aさんは不思議そうに言った。
「気圧が下がると副交感神経が優位になりますからね。そういう時って、感受性が過敏になって、不安になるそうですよ」
「ふうん」
「でも、不安になると、ここに来るっていうのも、おもしろいですね」
ぼくは笑った。
Aさんはおもしろくなさそうな顔をした。