休日の朝だというのに、切れの悪い寝覚めだった。アタマがフラフラする。水平感覚がおかしい。おそらく昨日の熱中症によるダメージがまだ残っているのだろう。今日はお盆の二日目。ぼくの辞書によれば、お盆とは家族全員でソバを食う日のことである。お昼前、あまり気乗りしない様子の家族3人を連れて松元町の某ソバ屋に出かけた。ぼくはエビ天の載ったみぞれソバというのを注文。体調が悪いせいで味があまりしない。家族そろってソバを食い、今年も由緒正しいお盆を過ごしたような気分に浸りつつ店を後にした。帰りに某園芸センターに寄ってみたが、客がほとんどいない。この時期、販売される草花の苗はめっきり少なく、屋外の売り場は絵を失った額縁をそのまま飾っている年寄りの家のような侘びしさがあった。ふと視線を感じて振り返ると、赤や緑の中から、ぼくに涼しいまなざしを送るものがいる。寄ってみるとそれは、なんとかという青い花であった(名前は忘れた)。商品なので手折るわけにもいかず、ぼくはその清楚な草花を買い求めることにした。家に帰り着き、さっそく鉢に植えつけてみた。思いのほかいい感じで、見つめているだけで心が和んでいくのがわかった。夏の日の恋とはこういうものだろう。日の沈む頃には、ぼくの車は薩摩半島を南に下っていた。昼過ぎまで暗雲に覆われていた空も、今ではすっきり晴れ渡り、遠くどこまでも澄み切っている。全開にした窓を抜ける風は爽やかで心地よい。それはまるで軽井沢の別荘地のよう。行ったことないけど。海岸に沿って南下し続けた車は、やがて右折し、深い湖のほとりに出た。時は黄昏。土産物屋もシャッターを下ろし、人気も無い。広い駐車場もひっそりとしている。人の気配がなくなると、この湖には1億5000万年の太古から棲んでいる恐ろしい怪物が現れる。この日ぼくは運よくそれを撮りとめることに成功した。湖を後にした車は開聞岳のふもとをぐるりと走り抜け、巨大植物園に進入。今夜は特別なイベントが開催されており、エントランスホールはめずらしく老若男女でにぎわっていた。夜の植物園は不気味である。お化けでも出そうな雰囲気があって、意外とおもしろい。真っ暗な順路を案内板にしたがって歩いていると、闇に仄かに浮かんだ竹灯籠をカメラに収めるべく、ストロボを焚いている人を多数見かけた。はたしてあの幽玄世界がうまく写っているだろうか。園内のレストランで食事を済ませ、園を出たのが9時。車は今夜の目的を果たすべく、さらに深い闇へと走り出したのだった。
☆右のほうに写っている小さなボンヤリはアンドロメダ座M32。
パンフォーカスな午後
今日は休みであったが、今回は趣向を変えてホエールウォッチングに出かけることにした。わが家から南西に車で約一時間走ると、東シナ海に面した笠沙という魅力的な町にたどり着く。ここはホエールウォッチングも有名だが、焼酎を造る、杜氏の集落があるところでも名が知れており、杜氏の里、という立派な施設もある。ここは年中アイスクリームを売っているので、ぼくはとても重宝している。ホエールとはクジラのことであるが、道すがら、さっそく電柱にそれを発見したので10分ほどウォッチングしてみた。それにしても今日は天気が良い。空気がスッキリ澄んでいるようで、ずいぶん遠くまで見渡すことができる。さて、笠沙といえば、もちろん、あそこである。そう、ブルUNOという名の不思議なレストラン。実を言うと今日の本当の目的はココなのであった。海岸沿いの道をしばらく走ると、やがてわざと雑に作ったのかもしれないような手作り看板が見えてくる。その看板からレストランのほうに曲がろうとすると、目の前を走っていた軽トラックもそちらに曲がったではないか。お客さんかもしれない。駐車場に着くと、そのトラックから出てきたのはブルUNOのマスターであった。マスターは、ぼくの車に近づきながら
「水道が壊れてねー、今から修理。だから今日はちょっと」
と言ったが、ぼくの顔を見るなり、
「なんだ、あんたか。コーヒーならできるよ」と言った。
「水が無いのに?」
というと、コーヒー用の水ならある、とのことだった。
この店の屋外デッキからの眺めは掛値なしにすばらしい。ぼくはここでいつも長い時間、海を見ている。ほんとにいいところだ。今日はマスターがハーモニカを吹くところを写真に撮ろうと思っていたのだが、水道がぶっ壊れたとのことで、今から本人自ら工事だという。仕方が無いので、コーヒーを点てるところの写真を撮った。
見よ、必殺、薬缶ドリップ。
「マスターの顔をブログに貼ってもいい?」
ぼくが言うと
「顔が減るわけじゃないし、いいよ」
とのことだった。
☆ブルUNOの地図はこちら
恋がシャーベットみたいならいいのに
月曜は定休日。10時過ぎ、ぼくの車は指宿スカイラインを南に走っていた。ゴキゲンであった。ぼくはなんでこんなに車を走らせるのが好きなんだろう。車はあっというまに千貫平自然公園に着いた。どうでもいいことだが、ここはぼくにとって記念すべき場所である。公園にはだれもいない。赤トンボが晴れ渡った空を乱舞しているだけだ。と、その群れを赤トンボの2倍ほどもあろう巨大トンボが横切った。あいつだ。つい数日前、totto*さんのところで話題になった、あのトンボ。まさか、こんなにも早くあのトンボに会えるとは。
指宿スカイラインは、薩摩半島の南端に位置する湖、池田湖を終点としている。池田湖といえば、もちろんアレである。そう、大怪獣イッシー、ではなく、南薩名物イモ味ソフトクリーム。時計を見ると、ちょうど12時。暑いはずだ。熱風を受けたソフトクリームはすぐにドロドロにとけ、エイリアンの卵みたいになった。ぼくはふいに遠い目になって、アフリカのサハラ砂漠を思い出していた。(行ったことはないけど。)腹がへったので開聞岳の麓にある某ハーブ園に行き、ペルー風トマトリゾットを食べた。デザートはいつものとおり、ハイビスカスシャーベット。ところで、暑くなってくると、どうしてもあの場所が話題にのぼってくる。というわけで、恐る恐るあの場所に行ってみた。
うーん、やっぱし何かある。カモ。
怪しい心霊スポットを後にしたぼくは、ふと思い立って、長崎鼻の灯台へとハンドルを切った。何年ぶりだろう。前回来た時は夜だったような気がする。
そして最後は南薩ドライブの定番、フラワーパーク。特に行く必要は感じなかったのだけど、入場料無料の年間パスポートを持っているが故に、近くに来た際は、入場しないと損をしたような気分になってしまうのが悲しい。
連日36度を越える猛暑が続いているせいか、プロムナードに沿って植えてある草木に元気が無い。枯れ落ちた大量の葉が歩道を覆っている。いいかげん、雨が降らないと、樹木に相当なダメージがありそうだ。
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恋がシャーベットみたいならいいのに 会えないときは凍らせておけるわ はやく食べなきゃ あなたと私 形がくずれてしまいそうよ
松任谷由美 オールマイティー
初海水浴
今日は月曜なので定休日。夏のスイッチをONするために海に向かった。いつもの海。だれもいない。だれも泳いでいない。月曜日だからだろうか。でも、さみしいわけではない。だれもいないほうが気楽でいい。海に入ってみると、けっこう冷たかった。それに透明度がいつもより低い。潜ってみるけど、魚が見えない。クラゲもいない。どこに行ったのだろう。少しさびしい気分。海にはぼく一人しかいないのに、土手のスピーカーからは数十分おきに「ここで泳ぐのは大変危険です」と、女性の声でアナウンスがある。その声が不思議とやさしく感じられ、海に一人ポツンと浮かんでいるぼくにとって灯台のようでもあり、なんだかうれしかった。4時間ほど泳いで帰路に就いた。
上の写真は、そのスピーカー。
土手にはハマゴウの花がたくさん咲いてました。
左手の黒い飛行物体はクマバチ。
携帯で撮ったんだけど、よく撮れてるでしょ?
(写真をクリックすると大きくなります)
夜のドライブ
昨夜はひどい雨だった。夜、高速を飛ばし、大雨の中を大隅半島の岩川という町に向かっていた。岩川に到着したのが11時過ぎ。岩川は人気もなく、ひっそりとしていた。岩川での当てが外れ、急遽、輝北町に向かうことになった。用を済ませ、帰路に就いたのが午前1時ごろ。あまり広くない真っ暗な山道を走っていると、大粒の雨が滝のように降り出した。車は霧に覆われ、視界は数メートル。
「フォースを信じるんだ」
ふいにそんな言葉が浮かんだが、それどころではなかった。
プロムナード
昨日は月曜日で休みだった。ぼくは血圧が低いせいか、目が覚めてもしばらくパァである。パァなまま机のパソコンに向かい、「月曜日は休んでます」という文字を、かなりの時間をかけてやっと掲示板に打ち込み、送信ボタンをプッシュ。エラー。よくあることなので気にせずリトライ。成功。掲示板の「月曜日は お店休んでます….. 」という文字をしばらくぼんやり見つめていると、不意にケータイが鳴った。
Sub 南薩
本日も出勤でっか?
当ブログにも時々コメントしてくださるE氏であった。予定では、県道17号線(指宿スカイライン)を南下、川辺ICの先にある 錦江台展望公園 のアジサイをチェックすることになっている。
Sub Re:南薩
まず、イブスカの椿の郷に行って、それから考えようと思ってますがよ
と、ぼくは返事した。すると
Sub Re:Re:南薩
ぼくもイブスカを流す予定です
そんなわけで、ぼくらは錦江台展望公園で落ち合った。なお、錦江台展望公園は椿が林をなしているので、以前は「椿の郷」と呼ばれていた(ような気がする)。つり橋の下に群生しているアジサイはまだ五分咲き。広葉樹の枝が重なり合う薄暗い小道をブラブラ歩く二人の男。その会話は植物や昆虫のことばかり。遠くで、そして近くでウグイスが鳴く。ふいに木々がざわめき、風が通りぬける。アリストテレスとその弟子たちは、道をブラブラ歩きながらよく議論したそうだ。たしかに歩きながらだと、話にリズムが出るためか、話が弾み、よく展開する。やがてぼくらは小高い開けた場所に到着し、岩に腰掛けてコーヒーを飲んだ。鳥の声、風の音。ここはとても静かなところだ。
せりふのない一日
昨日は定休日だったのでドライブに出かけた。南に一時間も走ると、そこは大きな植物園。そこには、赤い花や白い花、青い花が咲いていたが、その日ぼくはそれを言葉にするのをやめてみた。言葉にするのをやめると、赤い花は赤い花であることをやめる。白いアジサイも同じだ。そんなことが簡単にできるもんか、と思う方もいるだろうけど、ぼくはできる。といっても、ゲシュタルト崩壊を応用しているだけのことだ。ぼくは頻々として起こるゲシュタルト崩壊に悩まされていたのだけど、おかげでその状況をある程度フィードバックできるようになった。フィードバックできるということはコントロールできるということ。抽象化をやめると世界は一変してしまう。エネルギーが渦巻く引力と斥力のリアル世界だ。
ギーガーのカップ
今日で連休も終わり。降り続いた雨もやっと上がり、朝から青空が広がっている。コーヒーをポットに詰め、ぼくは山を越え田畑を抜けて南西の海へと走った。目指すは海に面した小さなレストラン。去年の秋以来、何度行っても閉まっている。今日はどうだろう。海沿いの道路から店を見下ろすと、駐車場に車が数台止まっている。店のドアも開きっぱなしだ。開いてるように見えるが… 開いていた。しかも、お客さんがいた。ぼくは店内を通り抜け、いつものように屋外デッキに出ると、テーブルとイスを海側に引きずり寄せて海に向かって腰掛けた。しばらくしてメニューを持ったおっちゃんが現れた。
「連休中は、さっぱりだった」
おっちゃんは開口一番、悲しそうにつぶやいた。
「ずっと雨だったからね」
ぼくはそういってコーヒーを頼んだ。
海を見ながらコーヒーを飲み、ぼんやりしていた。海からずっと風が吹いていた。ぼくはこういう時間がとてもいいもののように思う。
帰りがけ、出口近くの棚に変なコーヒーカップを見つけた。
「これ、売り物?」ぼくは聞いた。
するとおっちゃんは
「買うの?」といった。
「いくら?」ぼくはきいた。
「ほんとうは2000円だけど1500円でいいよ」
ぼくは買うことにした。H・R・ギーガーがデザインしたエイリアンの卵みたい。ちょっと気持ち悪いけど、こういうデザインって好き。
春爛漫
起床8:00。今日は休みなのだが、9時に歯医者の予約を入れたので早めに起きた。昨夜キムチを食べたので、歯を磨いてリンゴを2分の1食べ、近所の歯医者に出かけた。リンゴを食べるとニンニクの匂いは消えるらしい。早く着きすぎたので待たされることになった。書棚には婦人雑誌とマンガしかなかった。ぼくはマンガは読まないのだが、婦人雑誌よりはマシだと思って適当なマンガをつかんで読み始めたらけっこうおもしろかった。マスターキートンというマンガで、次回も引き続きこれを読もうと思う。名前を呼ばれ、一番奥のシートに案内された。キュートなお姉さんがていねいに歯石を取ってくれた。終了後、「いたくなかったですか?」と、ピンクのホッペのお姉さんはニッコリ微笑んだ。ぼくは「ぜんぜん痛くなかったです」と笑った。本当は少し痛かった。時計は9:57を指していた。車は海沿いの道路を南に向かった。山の麓にある貸切温泉に到着したのが11時。今日は響の湯を選んでみた。ここしばらく寒かったせいで、持病の腰痛がひどくなっている。ぼくはいつもより時間を30分延長した。柔らかな日差し、鳥の声。ぼんやり外湯に浸かっていると、時間の感覚が遠のいていく。温泉を後にし、池田湖畔の静かな公園でコーヒーを飲んだ。散っているだろうと思っていた桜は、うれしいことに満開だった。遠くでウグイスがしきりに鳴いている。メジロが次々に飛来し、桜の蜜を吸う。メジロが枝を渡り移るたびに、花びらがはらはらと舞う。湖面に映る開聞岳が美しい。花鳥風月。今日、ぼくもその風景の一部だった。腹が減ったので、町営ソーメン流しで昼食。ここのソーメンはあいかわらずウマい。このダシがすこぶる美味しいので、ペットボトルに入れて持ち帰る人もケッコウいるという。満腹になったところで、いつものようにフラワーパークに寄り、咲き誇る花を見て回った。めずらしいサルビアが植えてあった。売店でバジルを4株買った。1株80円。スパゲティーが好きなので、バジルがないと生きていけない。
北に走ることもある
昨日は定休日。予定では、笠沙の海辺にある某レストランか、開聞岳麓の唐船峡そうめん流しに行くつもりだった。最初の信号にさしかかって、どちらに行くか迷っているとき、ふと、前日にいらしたお客様との会話を思い出した。ひとりは佐多岬を周遊する特殊な船に乗って海中を眺めたといい、もうひとりは、阿久根の長島でグラスボトムボートに乗り、ガラス越しにイルカと挨拶を交わしたという。イルカとコンニチハ…。しゃれてる。佐多岬は遠いが、長島だったら2時間ちょっとで行ける。ぼくは左折ウインカーを戻し、車を直進させた。入来峠を越え、出水経由で阿久根に入った。窓は全開。春の匂いが気持ちいい。黒の瀬戸大橋を渡り、右折。まずは、視界の開けた場所でコーヒーを飲むことにした。行人岳に到着。なぜか人が多い。年配のオッサンたちが、駐車場の北側の柵に沿って横一列にカメラを並べ、異様な緊張感を醸し出している。いったい何事であろうか。カメラの砲列は北の空をじっと見据えたまま、一触即発の様相を呈している。恐る恐る近寄って見ると、どのカメラにも、ん十万円はする立派な望遠レンズが取り付けられている。そう、このオッサンたちは、UFOが表れるのを今や遅しと待ちわびているのだった。世の中にはいろんな人がいるものである。感心しながらトイレに向かうと、壁に次のような貼り紙がしてあった。
「ツルの北帰行をお待ちの皆さんへ。ほとんどの場合、ツルは午前中に旅立ちます、午後に帰ることはあまりありません」
コーヒーを飲み、一息ついたところで、山を下り、イルカウォッチングをやっていそうな方に車を走らせた。小さな島だから、適当に走っていれば、イルカウォッチング屋に着くだろう、と、軽い気持ちで車を走らせていたが、すぐに迷ってしまった。それらしいところになかなか辿り着かない。どこかで食事をし、そこで聞いてみようということになった。道の駅があったので、そこのレストランで、海鮮丼とあら炊き、そしてアラカブの味噌汁を食べた。時計を見ると、もう2時過ぎ。K銀行に用事があるので、道の駅の看板地図で探すと、ここからはけっこう遠い。しかもそこは先ほど迷って近くまで行ったところだった。戻るのもバカらしいので、阿久根の街のK銀行に行くことにした。というわけで、イルカウォッチングは次の機会に委ねることになったのである。