指宿に向かう海岸通りを気持ちよく走っていると、突如、前を走っていた車が路肩の砂塵を巻き上げ始めた。ぼくは真夏でも車のクーラーを使うことがない。カンカン照りの焼けたアスファルトの上を、窓を全開にして走る。クーラーのボタンというのは飾りなのであって、押してはいけないのだ。男の美学とはそういうものである。
前の車がモウモウと砂を巻き上げ始めたので、あわててぼくは窓を閉めた。すると車内はたちまちサウナ状態になり、まずい状態になった。しかたなく、ぼくはあのボタンを押した。海岸通りをしばらく走っていると、左前方に魚見岳と知林ヶ島が見えてきた。今日はいつになくはっきり見えて美しい。まるでぼくを呼んでいるようだ。ぼくはハンドルを左に切って、魚見岳へと向かった。久しぶりにのぼる魚見岳。展望台からの眺めはすばらしかった。左手に小さく見えるのは桜島。
魚見岳をあとにし、ぼくはいつもの某植物園に車を走らせた。時計は12時半を指している。炎天下、園内をうろついてる人はだれもいない。ホースを握った係りの人が、あちこちで水をまいている。のどが渇くせいで、氷水を入れてきた水筒も、すぐに空っぽになった。園内を歩いていると、かなり高いところを甲虫が飛んでいくのが見えた。その独特の飛び方はタマムシだ。
手の届くところにとまったら捕まえようと思い、目で追ったが、林の向こうに飛んでいってしまった。青い空に白い入道雲。すっかり夏だ。とてもうれしい。帰り、エントランスホールの前に植えてあるビロウの上を、タマムシが飛んでいくのが目に入った。タマムシは樹上をくるりと旋回し、近くのビロウの葉にとまった。
しかし、ずいぶん上のほうで、ぜんぜん手の届かないところだ。そう、欲しいものはなかなか手が届かない。
コパカバーナの夏
今日は「海の日」とかいう祝日であった。月曜日が定休日のぼくとしては、どちらかというと迷惑な日なのだった。ぼくは原則的に日曜日や祝日には外に出ない。どこに行っても人が多いからだ。しかし、朝起きて空を見上げると、晴れている。ぼくは原則的に、よく晴れた日にはドライブに出かけることにしている。そんなわけで、車はいつものように山を超え、海に向かっていた。白い入道雲が、山のあちこちからピョコンと頭を出している(カワイイ)。なんて気分のいい日なんだろう。昼ごはんにはまだ早かったので、亀ヶ丘に上ってみた。丘の上では、何人かの人が集まって空を飛ぶ準備をしていた。風が少し強いせいで、飛びにくいようだったが、頃合を見て、音もなくふわりと飛び立って行った。行き先は中国だろうか。腹が減ってきたので、来た道を引き返し、海岸道路沿いにある越路浜食堂というところに行ってみた。魚のてんぷらと刺身の定食を頼んでみたが、大変おいしく、満足した。月曜日も開いているようだし、次からはここに来よう。
コーヒーを飲みたくなったので、某海辺のレストランに向かった。開いているかどうか心配だったが、開いていた。店にはいると、店の奥の席に怪しげなオジサンが数名集まって、こそこそとソーメン流しをやっていた。もしかすると新しいメニューを研究中なのかもしれない。メニューといえば、道路際の看板がリニューアルされていた。今までにないメニューが書き加えられている。
しかも、その文字列はアナグラムになっていて、メニューの配列を写真右のように変えると「コパカバーナ」の文字が浮き上がる仕掛けになっている。ような気がする。海の見えるデッキでコーヒーを待っていると、そこにマスターがやってきた。「そのTシャツ、カッコイイですね」というと、
「これはね、ブルースハープをするナントカという人がナントカカントカ…」みたいなことを説明してくれたのだが、ぼくはすぐに忘れてしまった。「マスター、そのTシャツ、よく似合うから写真に撮らせてよ」というと、「いいよ、できた写真はキレイな人に見せてやってね」と、なんかわかりにくいことを言った。帰ろうとすると、「パン、いるね」というので、「いるいる」というと、焼きたての手づくりレンガ焼パンを4個もくれた。マスターは本当はいい人なんだとぼくは思った。コパカバーナ・レストランを後にし、銀河ライダーを見に、風車村に行ってみた。ここは、なぜかとても好きな場所なのだ。2年前の銀河ライダーは、銀河ーイダ…、になっていた。
タコ病
朝の海は気分がいい。砂丘にも、海にも、だれもいない。ぼくはゴーグルをつけて泳ぎはじめた。ここのところ雨が降らないせいか、水が澄んでいる。少し沖に出たところで、クラゲに出あった。クラゲと遊ぶのは退屈しない。動きがユーモラスだし、形もヘンテコでおもしろい。しばらくクラゲと遊び、再びあてどもなくユラユラ泳いでいると、海底でナニか白く光るものが見えた。貝殻かな、と思って潜ってみると、タコノマクラだった。まずい。タコノマクラを手にすると、ぼくはあのビョーキが出るのだ。タコノマクラを指に挟み、スナップを効かせ、10メートルくらいピュッと飛ばす。着水を見届け、ダッシュ。途中から潜水し、タコノマクラが海底に着地する前に手のひらでやさしく受けとめる。見失ったり、タコノマクラを海底に着地させてしまったら負け。投げたディスクを犬に空中キャッチさせるゲームがあるけど、あれと同じ。カモ。学生のころに思いついた遊びなのだけど、今でも海に行くとこれをやってしまう。今日も無我夢中でやってしまい、気がついたら2時間以上やっていた。なんでこんなにハマるのか、自分でもよくわからない。なお、浅いところでやると、タコが早く海底に着地してしまうし、深すぎると、深追いして危険です。天気の悪い日や、水がにごっている日には向きません。タコが見えないので。
今日はコンデジで撮りました。
ムスクの謎
正円池のホテイアオイを眺めたあと、ひっそりした吹上浜公園を通りぬけ、松林の中を歩いて海へと向かった。時計を見ると、ちょうど12時。太陽は真上にあった。セミの声に包まれながらしばらく歩いていると、ふいにエロティックな匂いがぼくの鼻をくすぐった。それはムスクの匂い。なんで、こんなところでムスクが匂うのだ。ジャコウジカ?ジャコウネコ? まさか。ぼくはあたりを見回した。もちろん、何もいない。セミがうるさく鳴いているだけ。ぼくは再び歩き出した。すると、またもや草いきれに混じって夜を思わせる悩ましい匂いが。??? ぼくの頭はクエスチョンマークでいっぱいになった、と、目の前を、大きな黒いアゲハが横切った。ジャコウアゲハのオスだ。もしや。ジャコウアゲハのオスは、ムスクの匂いがするんじゃなかったっけ。そう、それが名前の由来じゃなかったか。でも、これほどに鮮明な匂いを発するものなのか。道をそれ、下生えの繁茂する林に分け入って行くと、ジャコウアゲハのメスが藪の中を器用に飛び回っていた。たまに草の葉にとまるようなので、行って見てみると、それはヤマイモに似た蔓性の植物で、ジャコウアゲハの幼虫が食べるウマノスズクサの仲間らしかった。どうやら産卵している様子。
下の写真は二週間前に撮ったジャコウアゲハのメス。
ぼーっと海を見ていた午後
ぼくは海に向かっていた。峠を超え、道が下りになったあたりから青空が見えてきた。港のそばの魚料理店で昼食をとったあと、海に面した某美術館に向かった。美術館の屋上で塀にもたれ、なにも考えず、ぼーっと海を眺めながらコーヒーを飲んでいた。すると、美術館の中庭で、なにやら大声がする。屋上から、中庭の人に「なにかあったんですか?」とたずねると、受け付けのご婦人と、棒を持ったオジサンがぼくを見上げ「ヘビが出たんですよ」と言った。おもしろそうなので行ってみると、パティオ横の厨房に据えてある冷蔵庫の後ろにヘビが逃げ込んだとのこと。冷蔵庫の隙間から奥を覗き込んだが、何も見えない。
「冷蔵庫を引っぱり出しますから、よく見ててください」
ぼくは棒のオジサンにそう言うと、満身の力を振り絞って冷蔵庫を引きずり出した。
「いた!」オジサンは叫んだ。見ると、1メートルくらいのアオダイショウが壁際で体をクネらしている。ぼくはオジサンの棒を借りてヘビを引っ掛け、中庭に放り出し、靴で頭を押さえつけてビニール袋に入れた。「これ、どうします?」というと、オジサンは「こちらで処分します」と言って、ヘビ袋を受け取った。やさしそうなオジサンだったので、山に帰してあげたかもしれない。ぼくは再び屋上に上がり、コーヒーを飲みながらぼんやり海を眺め、体にエネルギーが戻ってくるのを待った。風邪は治ったものの、体調がなかなか戻らない。ぼくのカラータイマーはまだ点滅し続けている。今日は定休日を利用し、体調を戻す目的でドライブしているのだった。美術館の帰り、吹上浜にも寄ってみた。砂丘にはハマゴウやノブドウが広がっており、ノブドウは満開だった。そのみすぼらしい花にジャコウアゲハがたむろしている。花のそばでじっとしていると、彼女らは恐れずに寄ってくる。ぼくのシャツの柄が花に見えたのかもしれない。しばらくすると、ぼくは彼女らと同じ絵の中にいるような、幻想的な気分になった。それはエミール・ガレのガラス器「日本の夜」に描かれている不思議な蛾の群れの中のよう。
50円の金魚
きょうは定休日。久しぶりに南薩方面に出かけることにした。もし雨だったら、映画、「THE BUCKET LIST(棺おけリスト)」 を見に行くつもりだったが、予報どおり、朝起きると晴れていた。一時間後、ぼくはいつもの海岸通りを走っていた。左手にはいつもの海が広がっている。
チョイスしたBGMは、TAKANAKAの古いアルバム。久しぶりに見る海はとても大きく感じられた。海の景色と匂いが、ぼくの気持ちをみるみる軽くしていく。それは頭痛にノーシンが効くのによく似ている。いつもの植物園に着いたのは昼前だった。植物園には目的があった。数日前、ロビさんのブログで、ジャカランダが咲きはじめたことを知ったので、それを見るため。
去年行ったときは、落ちたジャカランダの花が、青いカーペットを敷いたように通路を覆っていた。今日はまだほとんどがツボミだった。ジャカランダの並木道の手前で、ヤマボウシが満開だった。清楚でとても美しい。田中一村の作品で一番好きなのが「白い花」なのだけど、それはヤマボウシが好きだからかもしれない、と思った。
ジャカランダの並木道を抜け、大きな花壇を過ぎると松林がある。そこに置いてあるベンチがすてきだ。座ってコーヒーを飲んでいると、頭上で風の音が聞こえる。この植物園は人工的なものだけど、ちょっと探せば、遠い昔の風や波の音が聞こえる場所がいくつかある。ベンチに腰掛け、目をつむると、遠い風の音が聞こえてくる。レストランで食事をとって、近くの屋内庭園に向かった。入り口の石垣でトケイソウが満開だ。
トケイソウの英名はパッションフラワーだが、その由来はキリストの受難(Passion)だ。同行のヨッパライ某に、花の形状と名前の由来の関係を説明すると、え~っ!と言って絶句した。庭園を出て、空を見上げると、太陽のまわりに虹色の輪ができていた。先日の環天頂アークを思い出す。ちょうど飛行機雲が地平に伸びていて、まるでイカロスの墜落のようだった。帰りに「ムー大陸」に久しぶりに寄ってみたくなって、曲がりくねった細い道を登った。
が、突き当りの朱色に塗られたエキゾチックな門に「工事のため、しばらく休みます」という貼紙がしてあった。しかたなく、近くの某怪獣池でソフトクリームを食べることにした。一口食べると、そこに口が現れた。何か不満があるような口だったが、何も言わなかった。某怪獣池を後にし、右手に海を見ながら走っていると、ふいに「しなくてはならないリスト」にのせている、あることを思い出した。
それは「金魚を買うこと」なのだった。玄関横の手水鉢にボウフラが湧いているのだが、その手水鉢の中は、今やスターウォーズ・クローンの逆襲に出てくるクローン製造基地に匹敵する勢いで次々と吸血蚊が生産されている模様なのである。対策用にメダカを一匹お客様から頂いたのだが、まったく歯が立たない。車は某ホームセンター横のペット売り場に向かっていた。買おうと思っているのは、黒のデメキンだ。
なぜ黒かというと、近所のネコが水を飲みに来るので、ネコに見つからないように、という配慮である。デメキンを探して店内をうろついていると、それらしいのが泳いでいる大きな水槽が見つかった。しかし、その価格を見て、それこそ目が飛び出た。380円!ぼくは20円くらいだろうと思っていたのだ。安い金魚を探して店内をうろつきまわる二人。
だが、20円の金魚は見つからず、棚の下の目立たないところに「金魚50円。自分では選べません」と書いた札が貼ってある水槽を発見した。黒が欲しかったが、贅沢は言ってられない。「これください」と言って、5匹買った。250円。そういえば、某怪獣池のソフトクリームも250円だったっけ。
ぼうけんは雨のち晴れだったのだ
ただいま、ぼうけんから帰ってまいりました。
今日はけっこう走ったなぁ。
というわけで、もう寝ます。
おやすみー[E:sleepy]
寿司びより
10時過ぎ、伯母を連れて病院に行った。診察によると、骨粗しょう症は順調に快復に向かっているらしかった。バナナを食べたいということで、病院からの帰り、スーパーに寄った。買い物を終え、信号を右折し、坂のトンネルを抜けると雲ひとつない青空が広がった。
「最高のドライブ日和だね。からだの調子が良くなったら海に連れてってあげるよ」 ぼくは言った。
「ありがとう。でも、今はそういう気分にならない」
暗い声で伯母は言った。ケアハウスは某団地の坂の途中にある。荷台から車椅子をおろし、伯母をのせて部屋に連れて行った。
「今日はせっかくの休みのところをありがとう」
伯母はそう言って、ぼくに10000円くれた。一応、いらない、と言って、ありがたく頂いた。これで寿司でも食おう。
「むだ遣いしなさんなよ、カメラとかに」
ぼくはギョッとした。なんで知っているのだ。くそ、某O型高気圧系妹Y子め。
ケアハウスを出ると、ぼくらはその足で海に向かって走り出した。江口浜の某店のにぎり寿司定食はけっこうウマイ。某店はあいかわらずの混雑ぶりだった。ここはいつもジジババでごった返し、ムードに欠ける。ここでうら若い美しい女性に出会ったことがない。ぼくらは、にぎり寿司定食と本日のおすすめ「鯛のカマ炊き」を注文。このカマ炊きは、数え切れないほどのカマがピラミッドのように盛ってあって、食べるのに苦労した。4人分くらいの量だと思う。腹がふくれると、いつものように海に出て、ぼんやりと歩いた。ぼくはいつもぼんやり歩く。
いつもの温泉は熱かった
雨のち曇り。昨日の予報ではそうなっていた。ぼくの大切な休日が雨だなんて。ぼくは不幸になりそうな予感がしたが、不幸ぶるのは今年はやめようと思ったのでやめることにした。くもり空の下、車は海岸通りを南下していた。やがて車は右折し、人気のない道路をしばらく走ったのちに、いつもの某温泉の駐車場の奥に停止した。昨日までは大変混んだであろう駐車場も、今日はガランとしていた。たまにはミヤビな気分に浸るのも良かろうと思い、今日はヒノキ風呂選んでみた。いい気分だった。今度家を建てる時は、湯舟はヒノキにしようと決心した。温泉を出るころには、空はすっかり晴れ渡っていた。某温泉を後にした車はいつものように某湖を半周し、某山のふもとにある某ハーブ園へと進入した。ちょうど昼だったので、レストランに入り、日当たりの良い窓際のテーブルに座った。いつものようにAセットを注文。食後のデザートも、いつもと同じハイビスカスのシャーベットをチョイス。なにもかもがいつもと同じだった。いつもと違うのは、ぼくだけなのかもしれなかった。今日は早く帰って、映画を見るつもりだ。帰りに、ナントカ物産館に寄って新鮮な野菜を物色した。すると、あの、個人的に幻のブランドのほうれん草を発見してしまったのだった。
植物園にて
車は海沿いを走っていた。海の上ではオリオンが冷たく輝いている。閉店後、ぼくの車は、南にある某植物園に向かっていた。この時期恒例のクリスマス・イルミネーションを見るために。到着したのが午後9時。レストランで食事をするつもりだったが、レストランは9時までだった。ぼくは腹をグーグー鳴らしながら、園内をブラブラ歩き回った。日曜の夜なので、人はまばらだろうと思っていたが、意外と多い。特にアベック。ぼくは何度も「写真を撮ってください」と、声をかけられた…
アベックだらけ
光のトンネルを抜けるとそこは
恋人たちは密室へと消えていった
やらしい目のサンタ
9時50分。 閉園を知らせる音楽が園内に流れはじめた。
園を後にし、しばらく走ったところで車を停め、外に出て空を仰いだ。
満天の星。
天頂近くで、昴が妖しく輝いていた。