振り子を使って水脈を見つける特殊能力を持っていたアグスティン。昔の恋人の面影を忘れることができず、愛する娘を残して死んでしまった。
駅から五分ばかり線路に沿って歩いたところには井戸掘り職人の家があった。彼は井戸を掘る天才だった。しかし、直子が十七になった秋、電車に轢かれて死んだ。
一人称単数。その何番目かにあるウィズ・ザ・ビートルズを読んでいるとき、ぼくの中の振り子がふれ始めた。それは一見、どこかの町の風景画みたいな回顧録。しかし、その町の地下には四方に伸びる水脈があり、太古の昔から生き続ける年老いた蛇が棲んでいる。ぼくは振り子を頼りに地下に潜入していく。
200万年後
赤い花
夏のワンピース
予約していたコーヒーを取りにいらしたお客さんは、どこかの避暑地ですれ違った気がする夏っぽいワンピースを着ていた。そして、わたし、夏が大好きなの。このワンピース、この夏着ることができなかったので今着ているの。と言った。色は違うけど、ユーミンがコンサートで着ていた水色のワンピースによく似てますね、彼女はそれを着て「ただわけもなく」を歌ってました。とぼくは言った。
時に流されない男
昼過ぎ、金曜日の男が豆腐を持ってやってきた。
「早いな、もう一週間経ったのか」とぼくは言った。実際、年をとったせいか、あっという間に一週間が過ぎる。
「ところでお前、ネットバイキング、やってるのか?」金曜日の男は言った。
「ああ、やってるよ、銀行に行かずに済むからな」
「あれは危険じゃないのか?」彼は怪訝な顔で言った。
そこで思い出した。彼は10年前にも同じことを言った。
ネットバイキング…
今夜のおかずは彼の作った豆腐で冷奴。
ちょっと前、テレビで、「伝説の家政婦」という人が作っていた冷奴だそうだ。
豆腐に、キュウリ、トマト、アボガドなどをのせ、粗びきのコショウ、塩、粉チーズ、オリーブオイルを振りかける。オリーブオイルの青くさい香りが意外にも豆腐にマッチするんですね
6時30分
今日から出勤時間を1時間早め、6時30分に家を出ることにした。
午前中、もっとゆとりを持って仕事をしたいと思ったから。
酔わせてくれるもの
だれもいない海
深夜ウォッカギムレットを作った理由
まだ暑いけど読書の秋
もう秋だし、なにか本でも読もう、って気になった。なんでもよかったのだけど、なぜか「今頃、春樹さんは何してるのかな」みたいな気分になってネットで検索したら、一人称単数、って作品がトップに出てきた。おもしろそうだったので電子書籍版をダウンロードして読んだ。なかなかおもしろい。といってもそれはエンターテイメント的なおもしろさとはちょっと違う。ゲーテはショーペンハウアーに「カントを1ページ読むとあたかも明るい部屋に入ったような気がする」と語ったそうだけど、ぼくがこの作品集のいくつかを読んで感じたのが、この「明るい部屋に入った感じ」だった。春樹さんはそんなことを考えて書いたんじゃないんだろうけど、自分が自分と呼んでる、この自分とはいったい何なんだ、みたいなテーマが根底にあって、文章はやさしいけど戦闘モード丸出しっぽい。そしてその矛先は春樹さん自身に向けられている。どうやら春樹さんは自分と戦っているようだ。なお、明るい部屋、とは、それまでは自分がいた部屋が暗いなんて思いもしなかったのに、どこからか光が射して明るくなり、見えなかった何かがうっすら見えてくる、という感じ





















