お店に籠って仕事をするようになって5年が経つ。
明らかに運動不足で、太ももなどは、見てはっきりわかるくらい細くなった。
筋肉の減少は目で見てわかるので、対策を打とうという気が起きる。
問題は、目に見えない部分の衰弱。
例えば脳。筋肉同様、使わないでいると小さくなるのか。
そういえば最近、頭を左右に振るとコトコト音がする。
ような気がする。
クジラ
バベルの塔
窓の外も暗くなってきた。まもなく閉店時間。
ぼくはカウンターのカップルと話している。
丸テーブルでコーヒーを飲んでいる若いカップルのおしゃべりが時々聞こえてくる。
二人の使う言語は日本語ではなく英語でもない。
時々起こる笑い声。
二人はスペイン語で話している。
さっぱりわからない。
大脱走
映画「大脱走」を見た。
ドイツ軍の捕虜収容所から脱出する物語なのだが、こちらの期待に反して失敗に終わる。
アルカトラズからの脱出やショーシャンクの空のような結末を期待して見たのでわだかまりが残った。
とてもいい映画には違いないけど。
天気予報
ハイライト
今日は父の日だった。
無条件に何かもらえる日というのは、ただ、うれしい。
ぼくが小さかった頃、父に何をあげていただろう。
今は吸わないが、そのころ父はタバコを吸っていた。
ハイライトをプレゼントした記憶がある。
ぼくはタバコを吸わないので分からないが、今でもあるのだろうか、ハイライト。
おしゃべりな午後
きょうは土曜日。
Aさんをはじめ、ユニークなお客様が集合してしまった。
各々、好き勝手なことをしゃべるので、混乱するかと思うとそうならない。
不思議と疎通がはかられてて、初めてのお客様でも孤立することがない。
歯に衣着せぬ乱暴な物言いに見えるが、だれも傷つかないように見える。
子供同士の会話に似せた大人の会話だ。
疲れたが、楽しい午後だった。
気難しいヤツ
機械というヤツは人間と同様、愛情を持って、いたわりながら使うと期待に応えてくれるし、長持ちする。
というのが、ぼくの機械に対する考え方であり、接し方である。
一般に、男は機械いじりが好きである。
ちなみにぼくは機械いじりが大好きである。よって、ぼくは非常に男らしい人間である。
という公式は今のところない。
さて、最近、少々カッティングエッジな機械を購入したのだけど、こいつが気難しい上に気分屋だ。
それはハイビジョンレコーダーなのであるが、時々思い出したように予約録画に失敗する。
それがまた、ぼくがどうしても見たい、と思う番組だけ見事に不発する。今日もそうだった。
拗ねているのか。
思うに、機械と女性は相似点が多い。
ホテル カリフォルニア
梅雨に入っているのだけど、外は明るい。今日は天気がいいようだ。
お店のガラス窓はとても広いのだけど、開けることができない。
一日中、お店に籠もって、珈琲を淹れたり本を読んだり。
もちろん、お客様の相手もする。
無性に青空が恋しくなって、用もないのに外へ出る。
ここは自由なようで自由じゃない。
ホテル カリフォルニアへようこそ。
自慢
昼前、豆を焼き終わって珈琲を飲んでいるところにオヤジが顔を出した。夜、何度も目が覚めてよく眠れなかったという。最近よく口にするのが、何もすることがない、楽しみがない、である。笑いながら言うので深刻な感じはないが、実につまらなそうだ。珈琲カップを置き、「友達も次々に死んで、遊ぶ相手もいなくなった」と、つぶやく。
ぼくの幼いころの記憶にはオヤジの友達がたくさん登場する。ぼくは男より女性と遊ぶほうが好きだったが、オヤジは男友達とよく遊んでいた。その友達が、ここ数年のうちに次々と死んでいった。そういう年齢なのだ。
「でも、Iさんは元気だぞ。まだまだすることがいっぱいあるみたいで忙しそうだ」
と、ぼくがいうと、オヤジの顔はにわかに明るくなった。
「俺が1番で、あいつは2番だったんだ…写真があるけど、見るか?」と自慢げに言った。何が1番なのか。学業成績ではないことは確かで「俺は裏口入学だったんだ」といつも得意になって話していた。
じゃあ見せて、と言うと、足取りも軽く店を出て行った。