ヒッチコックな朝

090530_01
11時を少し過ぎたころだった。ぼくは午前中に発送しなくてはならないコーヒーを大急ぎで袋に詰めていた。その時電話が鳴った。「はい、○○コーヒー店です」ぼくはいつものように名乗った。だが、なぜか相手はなにも言わず、ずっと押し黙ったままだ。「もしもし、もしもし」ぼくは繰り返した。と、電話は唐突に切れた。たまにこういう電話がかかってくる。ケータイからかかって来た電話に多く、電波の具合でそうなるらしい。ぼくはカウンターに戻ってコーヒーの袋詰めを再開した。するとまた電話がかかってきた。「はい、○○コーヒー店です」だが、相手は何も言わない。さっきと同じだ。耳を澄ますと、電話の向こうで何か息遣いのような音が聞こえる。「もしもし、もしもし」ぼくは繰り返した。しかし、さっきと同様、電話は無言のまま切れた。よほど電波の状態が悪いんだろう。ぼくはそう思ってカウンターに戻った。するとまた電話が鳴り出した。「はい、○○コーヒー店です」 ……。相手は何も言わない。「もしもし、もしもし」しかし、5秒ほどたつと、やはり電話は切れた。妙だな。ぼくは思った。もしFAXなら、あの特有の信号音が聞こえるはずだ。ぼくはカウンターに戻って再び作業を開始した。また電話が鳴り出した。ぼくは怖くなった。まさか、これがあの、いわゆる「無言電話」なのだろうか。ぼくは電話に出た。「はい、○○コーヒー店です」しかし、相手は無言のままだ。耳を澄ますと、受話器の向こうで、何か奇妙な音楽が流れているような気配がある。「もしもし、もしもし」ぼくは繰り返した。数秒後、電話は切れた。ぼくは気味が悪くなって、NTTの113番に問い合わせた。故障かもしれないと思ったからだ。「さっきから無言の電話がかかってくるんですが、調べてもらえないでしょうか。できたら、かけてくる相手が誰かも」すると係りの男の人は申し訳なさそうに、「故障は調べられるのですが、相手が誰かというのは調べられないんです」と言った。じゃあよろしく、と言って電話を切った。ぼくはカウンターに戻って袋にコーヒーを詰め始めた。だれだろう。ぼくに恨みを持つものの仕業だろうか。単なる嫌がらせ? こういうことをする可能性のある人物を特定すべく、ぼくの頭はめまぐるしく回転し始めた。やがて電話が鳴り出した。
つづく
 写真は庭のアジサイ

“ヒッチコックな朝” への2件の返信

  1. こんにちは。
    やっぱり「はい、○○コーヒー店です」じゃ~、分からなかったのかも(笑)。。。やっぱり本当の名前を名乗らなければ…A=´、`=)ゞ
    それにしても、連載物は続きが気になるのですよねぇ~ (;^_^A アセアセ・・・
    それでは・・・。

コメントは受け付けていません。