これは昨夜の話だ。時計は1時を回っており、家族はみんな眠っていた。ぼくもそろそろ眠ろうと思い、いつものように戸締りを確かめるために階段を下りていった。台所、リビング、玄関。すべての窓とドアをチェックし、最後に住居と店舗部分を隔てているドアを閉めようとした、そのときだった。ドアが閉まる寸前、だれかが向こう側からドアを引っぱった。ぼくはギョッとし、反射的にドアを引き戻した。すると向こうも引っぱる。ぼくは狂ったようにドアを引き、ドアが閉まるとすぐに鍵をかけた。ぼくはガタガタ震えながら2階に上がり、ベッドに入った。ぼくは「幽霊が引っぱった」みたいな考えを絶対に肯定したくなかったので、ドアが人間的な力で引き戻される科学的な理由をあれこれ考えてみたが、答えは見つからなかった。ぼくはこれほど恐い思いをしたことは、今までない。「ふん、馬鹿げたことを」と、笑われそうなことをこうしてあえて書くのも、読んでいただくことで少しはぼくの恐怖心がやわらぐような気がしたからだ。