島根の灯台

店からの帰り、お客さんの家にコーヒーを配達した。チャイムを鳴らすと、ひげを伸ばした初老の紳士が(といっても、ずいぶん若く見えるのだが)、いつものように柔和な笑顔で出迎えた。コーヒーを渡した後で、いよいよですね、と言うと、たちまち相好をくずし、ええ、今その準備中なんですよ、と言った。定年退職を迎え、近々、念願の日本一周の旅に出るのだった。一人で運転してですか、と聞くと、相手がいないからしょうがないでしょう、と白い歯を見せて笑った。奥さんはずいぶん前に亡くされていたのだった。まず、島根にある日本一高い灯台を見に行きます。それから日本海側を北上し、能登半島に行って竜飛崎まで上るんです。もしかすると北海道に渡るかもしれない。網走に友達がいるんで。
熱く語る、日に焼けた初老の男の顔を見ていたら、なぜかぼくもわくわくしてきた。島根に日本一高い灯台があるなんて知らなかったので、ぼくもそれを見たくなった。よーし、次は島根だ。灯台だ。

“島根の灯台” への2件の返信

  1. 灯台っていいですよね。冒険のシンボルみたいで。初老の紳士は今まで船長をやってきた人なので、灯台に寄せる思いは特に強いようです。ところで、男にとって女性は港に導く灯台であって欲しいという密かな願望があるような、ないような

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