骨の記憶

店からの帰り道、いつものようにカーラジオのスイッチを入れたら、不思議な音のする楽器がバロック風の音楽を奏でていた。木管楽器らしいのだけど、今まで聞いたことのない音。聞いているうちに、これは動物の骨で作った楽器じゃないだろうか、と、ぼくは思いはじめた。聞けば聞くほど、そういう音に聞こえる。風が吹いた翌朝、海に行って波打ち際をぶらぶら歩いていると、流木に混じって、白く脱色した大きな頭骨が打ち上げられていることがある。肉が無いので、それがどんな生物のものなのか分からない。馬かもしれないし、海に棲む怪物のものかもしれない。ぼくはラジオから流れてくる音楽を聞きながら、そんな波打ち際の風景を思い浮かべていた。その、持ち主の知れない頭骨に穴を穿って楽器にすれば、きっとこんな音がするだろう。音楽が終わって、曲の紹介があった。曲名は、バッハのなんとかカンタータ。楽器は、オーボエ・ダカッチャ、だそうで、それが動物の骨で作ってあるかどうかは説明されなかった。