昨夜、屋上に上がったぼくは、おもむろに人差し指を口に突っこみ、夜空を仰いだ。口から離れた指は、ひとすじの銀の糸を引いて天の一角を指した。
「明日は雨だな」
予報によれば、明日はおおむね好天らしい。しかし翌朝、つまり今朝、ぼくは雨の音で目覚めることになった。だからといって、ぼくは気象庁を責める気などない。気象の予測は大変デリケートなものである。高名な某カオス理論によれば、北京で蝶が羽ばたくとニューヨークで嵐が起こるという。これは取るに足らない些細な現象が、予測とまるで異なった結果を引き起こすという例えだ。つまり、気象を予測するならば、こういう下位レベルのデータまで入力する必要があるといっているのである。
では、今日の気象予測を外し、雨をもたらした「蝶の羽ばたき」に相当する些細な原因とは何だろう。
これである。昨夜は土曜であった。あちこちで乙女の住まう窓が開き、家に取り残された彼女らの、たっぷり水蒸気を含んだタメ息が上空に昇ったのだ。